あなたは私と同じ高校を卒業しているから
仕事……同一組織において、身分格差は絶対だ。かつての宮廷じゃないが、身分が下の人から、あいさつをすることもできない。
「それはあります。社員さんの言うことは絶対で、新卒の人であっても、敬語を使い、言われたことには逆らわないようにしていました。そうしないと、またゼロから仕事を探さなくてはいけない。年を取ってからの職探しは心がやられますからね。私、レジ打ちのパートに応募したんですが、電車で30分の研修施設に14日間通わないとお店に立たせてもらえない。そこは寒いし、立ちっぱなしだし“これは無理だ”と思いましたもの」
パートとして働いて1年目に、課長クラスの役職の秀美さんから声をかけられたとき、佑子さんは何を思ったのだろうか。
「“性格が悪い”と評判の人だったので、クレームが来たのかな……と思いましたよ。注意されるとか、クビになるとか。社員さんは基本的にパートに声をかけない。行ってみると、そんな雰囲気でもなく、“あなたと私は同じ女子校を出ている”と言うんです」
ずっと独身で清掃会社の正社員として勤務してきた秀美さんと、40年近く専業主婦をして3人の子供がいる佑子さん。
「東京の地味な中高一貫女子校なんですけれどね。同じ学校を出ても、人生は違うんだなと思いました。しかも秀美さんは美人なんですよ。私は三食昼寝付きの生活をして、子供も産んでいる。秀美さんはずっと働いていて、独身。でも、同じ学校を出ているというだけで距離が縮まる。私の方が11歳年上でも、同じ先生を知っていたりして。あの時はコロナじゃなかったので、一緒に食事に行ったり、伊豆や千葉など近場の温泉に旅行に行ったりもしましたよ」
【「子供に老後資金をむしり取られてかわいそう」と「ずっと独身でかわいそう」の意識が距離を近づけていたのかもしれない……後編に続きます】
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。