いつまでも年賀状を出すのは迷惑かもしれない、とも思っていた
その一方で、Aさんにいつまでも年賀状を出すのは迷惑かもしれない、とも思っていた。
「だって、“あちら”は会社関係の人間とはすっぱり縁を切りたいと思っているかもしれないじゃないですか」
かくいう林田さんは、今、自身がその“あちら側”にいる。
「結果、今年は7人ですからね。そもそも7人のうち4人は同期入社の奴らだし、そのうちふたりは『最後の年賀状にさせていただきます』って書いてありましたよ。来年は5枚だけでいいから、ラクなもんですよ」
そう言って自嘲気味に笑った。
じつは、妻に引け目を感じているのは、年賀状の枚数だけではない。妻宛ての年賀状を見て、なんとも言えないジェラシーを感じたのだそうだ。
「妻の年賀状には、けっこう書き込みが多いんですよ。余白にぎっしり書いてあるのもありました。それを読みながら、ふふっと笑ったり心配したりするんですよ。慌てて電話して長いこと話し込んだり、『近いうち、ご飯に行こうよ』なんて約束をしているのを見たこともあります。昔は、いい歳して友達ごっこみたいなことやってるなと思っていましたけど、最近はちょっとうらやましいんですよね」
先日、うらやましさから、つい本音を漏らしてしまった。
「おまえの年賀状は、ほとんど仕事絡みの人からだろう? リタイアした僕に比べて多いのは当然だよな。まあ、今はスマホの時代だから、3年もすれば年賀状なんて誰も出さなくなるだろうね」
キッチンで洗い物をしていた妻が、手を止めた。眉間にしわが寄ったのがわかった。……どうやら地雷を踏んだようだ。
【~その2~に続きます。】
取材・文/大津恭子
出版社勤務を経て、フリーエディター&ライターに。健康・医療に関する記事をメインに、ライフスタイルに関する企画の編集・執筆を多く手がける。著書『オランダ式簡素で豊かな生活の極意』ほか。