「相続財産とは故人の所有物全体である」と、説明できる人は多いと思います。しかし、自身や家族の保有資産ともなると、後世代が受け継ぐべきものを具体的かつ漏れなく挙げられる人は、あまりいらっしゃらないかもしれません。相続手続きの第一歩は、遺産の定義とそこに含まれる資産の種類を把握し、今後の相続に備えてリストアップできるようにしておくことです。

そこで今回は、相続の生前対策を行う日本クレアス税理士法人の税理士 中川義敬が、長年にわたる相続税申告のサポートを通じて得た幅広い知識や経験に基づき、相続財産とは何を指しているのかについてお話ししたいと思います。

目次
相続財産とは? 遺産との違いについて
相続財産の範囲とは?
みなし相続財産とは?
相続税が課税されない財産
まとめ

相続財産とは? 遺産との違いについて

相続財産とは、被相続人がその死亡時点で保有する財産全体を指します。故人の持つ「モノ・金銭・権利義務」などのプラスの財産だけでなく、「借金や約束履行義務」などのマイナスの財産も全てが含まれることになります。

相続財産と言えば不動産や現金ばかり連想されがちですが、決してそれだけではありません。そもそも相続とは故人が所有する「モノ・金銭・権利義務」の全体をまるごと受け継ぐ手続きです。目に見えて価値のわかりやすい資産だけが後の世代に受け継がれるのではなく、承継したい資産を相続人が個別に選択することも認められていません。こうした法律上の前提をもとに、相続財産と解釈されるものには、有形無形のあらゆる資産・負債が含まれます。

上述した相続財産とは民法上の定義であり、遺産とほぼ同義語として取り扱われます。しかし、相続税法の定義では、実質的な相続財産で税金を負担するだけの価値のあるものに課税するとされています。そのため、被相続人が死亡時点で保有する資産・負債だけでなく、下記のような財産についても課税されます。よって、民法上の相続財産より広い範囲で定義されることになります。

・相続や遺贈によって取得したものとみなされる財産(みなし相続財産)
・相続時精算課税の適用を受ける贈与財産
・被相続人から死亡前3年以内に贈与により取得した財産

相続財産を全て把握しないと、遺産分割も相続申告も適正に行うことが出来ません。しっかりと調査を行う必要があります。もし、相続放棄などで相続人がゼロになった場合には、相続人であることが明らかでないと判断され、相続財産管理人が選任されることになります。

相続財産管理人とは?

相続放棄や被相続人に家族がなく、相続人がいない場合には、家庭裁判所は申立てにより相続財産管理人を選任します。相続財産管理人は、被相続人の債権者等に対して被相続人の債務を支払うなどして清算を行い、清算後残った財産を国庫に帰属させることになります。

相続財産の範囲とは?

相続財産はプラスの資産とマイナスの負債が含まれますが、具体的にはそれぞれ下記のとおりです。

プラスの資産

相続財産の種類詳細
(1)不動産所有権・借地権など
(2)預貯金・現金普通預金・定期預金・タンス預金など
(3)有価証券証券口座で管理している株式や債券など
(4)動産類自動車・家財など
(5)損害賠償請求権慰謝料請求権も含む
(6)各種債権個人事業や不動産運用で得られる収入(売上または賃料)
(7)知的財産権特許権・著作権など
 ※ その他未回収の売上金、ゴルフの会員権、貴金属や宝石類など

マイナスの負債

借金・納税義務・死亡時点までの故人の生活費などは“負の遺産”であり、相続財産評価額全体の価値を下げるものです。具体的には以下のものが該当します。

(1)借入金・保証債務
・消費者金融からの借金
・返済中の住宅ローン
・自社の資金調達のために行った経営者保証の事業融資

(2)個人事業の買掛債務
個人事業主が後払いの約束で仕入を行った時の債務(買掛債務)が該当します。

(3)未払いの税金・健康保険料
被相続人が滞納している税金などは相続人負担であり、相続財産からマイナスすることになります。

(4)死亡までの固定費・生活費・医療費
死亡までに発生していた家賃・水道光熱費・医療費の支払い義務も相続対象です。故人の身の回りを整頓する際、忘れず支払っておく必要があります。

もし、相続で損失が出る可能性が高いのなら、死亡日から3か月以内に相続放棄・限定承認のいずれかを家庭裁判所に申し立てるのが適切です。

みなし相続財産とは?

みなし相続財産とは、上述した通り民法上の相続財産にはならないものの、相続税法上の相続財産とみなされるもの。具体的には死亡退職金や生命保険金、個人年金など定期金に関する権利などが該当します。被相続人の相続時には本人の手元にその財産はありません。しかし、相続によって受給できる権利が発生するため、相続財産として認識する必要があるのです。

相続税が課税されない財産

故人の財産に含まれる「お弔いや家庭行事のために最低限必要なもの」「受取人が決まっており分割・処分の一切が出来ないもの」は相続財産として扱われません。つまり下記の財産に関して相続税は課税されません。

墓地や仏壇など(祭祀財産)

お弔いや家族の宗教的慣習に必要な財産は「祭祀財産」と総称し、行事の主宰者となる人がひとりで承継することができます(民法817条)。主宰者は被相続人が遺言または口頭で指定でき、生前に指定がなかった場合には家庭裁判所の審判で決めてもらうことができます。

【祭祀財産の例】
・墓地(永代使用権)
・お寺の永代供養権
・仏壇・仏具・神棚
・家系図

身専属権(老齢年金・生活保護受給権)

身専属権とは「故人以外の人に移転したりすることのできない性質の権利」を指します。下記の権利・資格はいずれも死亡届提出と同時に消滅し、相続人が誤って利益を受け取った場合は返還義務が生じます。

【身専属権の例】
・老齢年金・障害者年金の受給権
・生活保護受給権
・職業資格
・扶養請求権(民法878条・881条)

このほかにも、相続・遺贈により取得した財産で国や地方自治体、公共事業に寄附されたものや、被相続人の生前の勤務先から支払われた弔慰金にも相続税は課税されません。

まとめ

相続財産の範囲をしっかり理解しておけば、生前の財産目録の作成・死後の遺産調査の両方において、迷いや調査漏れを防げます。相続財産を正しく把握しないと遺産分割協議で揉め事が発生したり、誤った相続税の申告になり、思わぬ税額が発生するかもしれません。調査のための時間が取れない場合、故人と疎遠で財産の保管場所に関する手がかりが全くないケースでは、相続の専門家に一任することも前向きに検討してみましょう。

構成・編集/松田慶子(京都メディアライン ・http://kyotomedialine.com

●取材協力/中川 義敬(なかがわ よしたか)

日本クレアス税理士法人 執行役員 税理士
東証一部上場企業から中小企業・個人に至るまで、税務相談、税務申告対応、組織再編コンサルティング、相続・事業継承コンサルティング、経理アウトソーシング、決算早期化等、幅広い業務経験を有する。個々の状況に合わせた対応により「円滑な事業継承」、「争続にならない相続」のアドバイスをモットーとしており多くのクライアントから高い評価と信頼を得ている。

日本クレアス税理士法人(https://j-creas.com

 

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