妻の浮気を知った男の決断
妻が出てきたのは、23時30分、終電ギリギリです。エントランスから出ると、2階のベタンダーから「ミーナ!」と声がかかってきます。妻が振り返ると「俺も行く」と。
白いダウンジャケットを着て、ニット帽をかぶった60半ばの男性がエントランスから出てきて、「散歩がてら送るよ。危ないから」と言って、2人は手を握って歩き始めます。
妻はわざわざ手袋を取って、カップルつなぎをしている。男性は妻に「ベタぼれ」という感じで、しまいには腰を引き寄せ、妻もまんざらでもなさそうにしています。そして、名残惜しそうに見送っていました。
妻はスマホでドラマを見ながら地元の駅に到着。そして、深夜の駐輪所で自転車を引き出して帰っていきました。
私たちが撮った映像と写真は、浮気の証拠とするにはあまりにも弱い。法廷で「浮気ではなく、仕事をしていた」と言われてしまえば、それで終わりです。
依頼者・安治さんに「おそらくこの人が、妻の浮気相手だと思います」と報告すると、「これは妻の友人の夫です」と驚いていました。
この男性は離婚したばかり。ずっと浮気をしていて、元妻になにもかも持っていかれたと言います。
「まさかこの人と……」とあっけに取られつつ、安治さんは帰っていきました。
その2日後に「証拠は撮っていただいたのですが、私はこれをどうしていいかわからないんです」と連絡がありました。
「この証拠を見せたら、妻はあの男のところに行ってしまうと思いませんか」とおっしゃるので、「そうかもしれません」と答えます。結婚歴が長い夫婦の場合、夫は妻に生活の多くを委ねているケースが多い。安治さんもその一人だと拝察。また、経済的に余裕があり、浮気相手に制裁を加えることで、パートナーの心が離れることが想定される場合、慰謝料を求めないことが多いんです。
私が「どうしたいのですか?」というと、「このまま何事もなく妻と暮らしたい」と言うので、「このまま何もなかったことにするのも、ひとつの解決策かもしれませんよ。後悔がない選択をされた方がいいと思います」とお答えしました。
恋愛体質の人にありがちなのですが、最初の半年間くらいは相手に没入するのです。そして、ほとぼりが冷めると、相手に飽き、その後一切の興味を持たなくなって切り捨てる。そういう傾向があることをお伝えして、追加相談は終わりました。
それから1週間、「妻が家にいるようになりました。山村さんの言う通り、相手に飽きたみたいです」と連絡があったのです。
「正直、複雑な心境ですが仕方ありません。“時間がくすり”と言いますが、妻の浮気も時間が忘れさせてくれると思います。これから子供もできないですし……。これから孫も生まれることですし、死ぬまで夫婦でいようと思います」
探偵・山村佳子
夫婦カウンセラー、探偵。JADP認定メンタル心理アドバイザー、JADP認定夫婦カウンセラー。神奈川県出身。フェリス女学院大学卒業。大学在学中に、憧れの気持ちから探偵社でアルバイトを始め、調査のイロハを学ぶ。大学卒業後、10年間化粧品メーカーに勤務し、法人営業を担当。地元横浜での調査会社設立に向け、5年間の探偵修業ののち、2013年、リッツ横浜探偵社設立。依頼者様の心に寄り添うカウンセリングと、浮気調査での一歩踏み込んだ証拠撮影で、夫婦問題・恋愛トラブルの解決実績3,000件を突破。リッツ横浜探偵社 http://www.ritztantei.com/