過去のわだかまりを「くだらない」と言った
結婚してからは親との距離は疎遠気味だったそうですが、30歳を過ぎた頃に妹の結婚、出産があり、その頃から些細なことで母親から呼び出されることが増えていったとか。
「妹が結婚する前は妹に頼んでいたことが私にスライドしたんだと思います。それと私たち夫婦が車を持ってたことも影響していたかなと。自分の足のように使えると思ったんじゃないでしょうか。当時私たちが暮らしていたのは実家から車で20分ぐらいの距離で、『ちょっとここに連れて行ってくれない?』という内容の電話が増えました。
それでも、妹が忙しくなっただけでも頼ってもらったことが嬉しくて行ってしまうんです。最後には不快な気持ちで帰ることになるんですけどね……」
結婚後も飲食店でアルバイトをしていた智子さんは母親の急な呼び出しにもできる限り対応していたそう。そんな中で母親とケンカに発展してしまいます。過去のことを話す智子さんに母親は「そんなしょうもないことを引きずっていたの?」と笑いながらバカにしてきたと言います。
「一度車で買い物に連れて行って、実家に戻ってきたときに買い忘れがあるからもう一度連れて行けって言われて、軽い気持ちで母親に『どんくさい』と、失敗を非難する言葉を言ってしまったら、母親が『親に向かってその言葉は何だ! あんたほどじゃない』とキレて。それに私もカッとなってしまって、過去の私へのけなされた言葉を母親にぶつけました。
私のあまりの勢いにポカーンとしていた母親ですが、『そんなしょうもないことを今も覚えているなんて、本当にしょうもない(くだらない)子』とバカにしたような笑いを向けてこられたんです」
その言葉をきっかけに母親からの連絡を一切無視し続けていると言います。妹も味方にはなってくれなかったと言い、父親とは母親を介してしか連絡を取っていなかったこともあって一緒に疎遠になったとのこと。今も後味の悪さは残っているそうですが、あの頃よりはマシだと智子さんは答えます。
「その後、妹から連絡があったんですが『お互い大人気ないよ』と。妹を見ると、うまくできない自分がさらに惨めになるんです。もう縁を切りたいとか大層なことではなく、親も妹のこともすべて忘れたいんです。これ以上嫌いになりたくないし、囚われたくない。
今はもう10年くらい疎遠で、やっと他人に親が嫌いだと言えるようになりました。これは囚われなくなってきたということなのかなって、ようやく思えるようになったところです」
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。