誰かの役に立つことが人生の張り合いに
「庭で水やりをしていたら、ウチの畑をにこにこ眺めている年配の女性がいたんですよ。次の日も足を止めて見ている。挨拶をするようになって、立ち話をするようになって……。で、ちょっと話を聞いたら、道路側に伸びた庭の木の枝を息子さんに切ってもらう約束をしているんだけど、家に帰ってくるのが1か月先もだって言うんですよ。『よかったら僕が切りましょうか?』って言ってみたら、喜んでくれてね。いいものですよ、誰かの役に立つって」(晴人さん)
それをきっかけに、晴人さんは数軒の高齢者宅に呼ばれ、枝切り作業などを手伝うようになったそうだ。ただし、便利屋さんのように思われると困るので、“簡単な庭仕事30分以内”という条件にしている。
加奈さんからのご近所づきあいの提案はもうひとつある。庭で収穫した野菜をご近所におすそわけすることだ。最初のうちは、加奈さんが週末に知り合いの家庭を訪ねて手渡ししていたが、1年ほど経った現在は、晴人さん自身が届けに行っているらしい。
「はっきり『いらない』と断る人もいますよ。そういう人には無理強いしません。でも、『ありがとう』って受け取ってくれる人のほうが多かったね。今は、畑にいると外から声をかけられるようになりましたよ。この前なんて『小松菜は作れる?』なんて聞かれたんですよ。みんなのリクエストを聞くわけにはいかないけど、収穫量の目標があると張り合いになりますよ」(晴人さん)
長年主のいなかった自宅の庭が、花や草木で賑やかになり、今では妻も満足のようだ。
「主人は研究熱心だから、きっと来年は小松菜を作っていますよ。私はオクラが好きだから、去年、オクラをリクエストしたんです。やっぱり採れたての野菜は味が濃くておいしいの! それに、オクラの花ってクリーム色でとってもキレイで感激したんですよ。私もいつか孫ができたら一緒に何か育てたいなぁ、なんて思い始めてます」
取材・文/大津恭子
出版社勤務を経て、フリーエディター&ライターに。健康・医療に関する記事をメインに、ライフスタイルに関する企画の編集・執筆を多く手がける。著書『オランダ式簡素で豊かな生活の極意』ほか。