取材・文/大津恭子
定年退職を間近に控えた世代、リタイア後の新生活を始めた世代の夫婦が直面する、環境や生活リズムの変化。ライフスタイルが変わると、どんな問題が起こるのか。また、夫婦の距離感やバランスをどのように保ち、過ごしているのかを語ってもらいます。
[お話を伺った人]
内海晴人さん(仮名・64歳)医薬品メーカーを退職。念願だった家庭菜園を始め、日々野菜作りとその研究に勤しんでいる。
内海加奈さん(仮名・56歳)薬剤師として働いていたが、出産を機に退職。子育てを終え、現在は近所の調剤薬局でパート勤めをしている。
【~その1~はコチラ】
収穫した野菜をご近所におすそわけ。頼れるご近所さんに変身
退職後、趣味で始めた庭仕事。ところが無意識のうちに近所迷惑な行為を繰り返してしまい、娘から“トラブルメーカー”と容赦ない言葉を投げかけられた。
「主人もハッとしたと思いますけど、娘のひと言で、私も気が引き締まりましたね。
あのとき娘がピシャッと言ってくれなかったら、落ち葉を燃やし続けて、そのうち消防車かパトカーを呼ばれちゃったかもしれないでしょう? 本当にトラブルメーカーにならないように、主人にもちゃんとご近所づきあいをしてもらおうと思ったんです」(加奈さん)
リタイア後、家で過ごす時間が増えると、それまで見かけることのなかった人や、挨拶することのなかった人に出くわす機会が増える。ご近所づきあいができるか否かは、自分と家族が快適に過ごすために重要だ。
晴人さんの場合、新築直後から長期間、海外に単身赴任していたせいもあり、実質的なご近所づきあいをせずに過ごしてきた。
その間、10数年に渡って内海家の代表としてご近所づきあいをしてきたのは、妻である加奈さんだ。子供の学校のPTA活動も、町内会の活動も、加奈さんがひとりでこなしてきた。
「母子家庭だと思っていた人もいたと思いますよ。帰国した主人が夜遅い時間にウチに入ろうとしているところを見て、不審者扱いされたこともありましたから」(加奈さん)
「最近知ったんですけどね、『静かにしてください』って言いに来た小学生は、娘の同級生の子だったんです。……そういえば、僕はなんにも知らなかったんだよね、近所のこと。子供や妻に『近所の〇〇さんが』って言われても、全然ピンとこない。今となっては、家を建てた当時の隣人が転居していたり、空き地だったところに新しい家が建っていたり、人も景色もどんどん変わるから。変わらないのは家のローンだけ(笑)」(晴人さん)
「ある意味、主人も新参者なんですよ。だったら、いい印象を持ってもらうチャンスじゃないですか。ご近所にはひとり暮らしで庭の手入れに困っている方もいるから、時間があったらお手伝いしてあげたら? って言ってみたんです」(加奈さん)
すると、晴人さんは加奈さんの予想以上の“いい人ぶり”を発揮したそうだ。
【誰かの役に立つことが人生の張り合いに。次ページに続きます】