妻に先立たれたら、子供たちの面倒をみきれない
俊介さんの子供たちは、父親を煙たい、面倒くさい人と思っているだけで、反抗したり憎悪の感情があるわけではない。
「私が小言を言わなければ、“パパ”と来るはず。でも彼らは、うるさい私がいない3人の生活に慣れて、楽しそうにしているんです。近所に住んでいるので、先日スーパーで妻と子供たちを見かけました。一緒に住んでいないと客観的に家族を見られるんですよね。ボーッとしている30男の息子と、少女趣味のままオバサンになった娘が、60代の母親にまとわりついている。息子がカートを押しながら、高級アイスクリームを買っていいか聞き、デコポンを3個かごに入れる。娘が妻の郷里の菓子に気付いて、妻に教える。すき焼き用の肉を買い、妻が1万円近くの会計をしている。息子が2つのエコバッグに購入したものを入れ、牛乳や卵が入っている重いものは自分が、お菓子を入れた軽い方を娘に持たせている。妻だけがホワイトカラーなのでスーツを着ており、凛としていた。その姿は2人の従者を引き連れた女王様みたいだった」
俊介さんは「な~んだ、父親はいらないのか」とさみしくなったという。
「そんなことはとっくにわかっていました。でも必要とされても困るんですよ。息子は30歳、娘は27歳……世間的には自立してもいい年齢なのに、母親にべったりくっついて、おそらく恋人もいないまま生きている。家賃、光熱費はもちろん、スマホ代や社会保険料まで妻が出している。妻に先立たれたら、子供たちの面倒はみきれません」
一度、妻に「子供を甘やかせるのはやめないか」と打診したことがある。
しかし、妻は、「子供たちの世代は、私達の世代の半分以下の給料で働いている。一人暮らしをさせたら、ブラック企業にいいように使われて、うつになったり自殺したりするかもしれない。それなら、しばらく様子を見て、いつか自立させよう。そのうち好きな人ができれば変わるでしょ」と言った。
「“しばらく様子を見る”が5年以上続いていて、好きな人ができる気配もない。妻の給料がいくらかはわかりませんが、それなりにもらっていたとしても、子供たち2人の人生を賄えるくらいはないはず。金の問題はさておき、私はふがいないんです。子供たちがああなってしまったことが私の人生最大の後悔です」
取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。