家の中のすべてが、彼女が、この世にいないことを伝えている

「息子夫婦が全部やってくれたので、何とかなりました。納骨してから家に戻り、妻の選んだ調味料や手書きのレシピやメモが残る台所、あみかけの編み物があるリビング、妻が畳んだ洗濯物があるクローゼット……家の中のすべてが、彼女がもう、この世にいないことを伝えている。それが受け入れられなくて、床に転げまわって号泣していました」

身長173cm・体重60kgだったが、たった1か月で52kgになってしまう。

「仕事は続けていたので、家にこもって泣いていることはなかったのですが、何をしても楽しくないから、ほとんどものが食べられませんでした。家で料理をしようと鍋を見ると、妻の顔が浮かんできて、床にうずくまって泣いてしまう。泣き疲れていつのまにか寝て、朝起きて仕事に行く……ということの繰り返しでした」

そんな父親を心配した息子夫婦が、松木さんの妻が亡くなってから半年後に、家の掃除に訪れた。

「“時間はくすり”と言いますが、まさにその通りで、半年くらいすると、妻が亡くなった悲しみも癒えてくる。お嫁さんと孫たちが、家の中の不用品を洗いざらい処分してくれて、だいぶん気分がすっきりしました。妻が生前集めていた多くの時計、バッグ、ジュエリー、靴、食器などを売ったら、約300万円にもなったのは驚きでした。海外勤務が多かった私が買ってきたバッグなんて、何回も使ったはずなのに、傷もなく……いいものを大切に使う人だったことを思い出してまた泣きました」

【妻の遺品と決別し、徐々に気持ちが切り替わっていき、出会った運命の女性~その2~へ続きます】

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』『不倫女子のリアル』(小学館新書)がある。

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