徐々に広がる母親との距離も縮め方がわからない
実家に戻ってから3か月ほどで玲子さんは一人暮らしを始めます。同棲直前まで暮らしていたときと違い、実家はリラックスできる場所ではなくなっていたと振り返ります。
「相変わらず父親は自由に生きていて、顔を合わすことも1日に一度あるかないかぐらいで、それは実家で暮らしていたあの頃と変わりません。なのに居心地が悪くなったのは、あまり考えたくはないけど、母親にも気を遣うようになってしまったからなのかもしれません。でも、嫌いとかではなくて一度家を出て他の人と暮らしたことで自分のペースが変わってしまったという感じです。それに20代も後半だったので、ちゃんと自立しないといけないという焦りもあったと思います」
その後も母親とは月に1~2回ほど交流は続き、父親とはまったく知らない人みたいな関係に。その間に一度だけ父親のことについて話したことがあるそうですが、母親からは煮え切らない返事だったと言います。
「母親はまだ働いていたので、お互いの仕事終わりに待ち合わせをして食事することもありました。その頃には妹は地方に嫁いでいたこともあり、私は子どもとして楽しくない父親との生活をカバーしなくてはという思いがあったのかもしれません。母親は私との食事のときも、父親のためにご飯を用意していました。外に出ても父親に縛られている母親のことがなんだかかわいそうに思えて、離婚しないのかって聞いてみたことがあるんです。そしたら、『そうね~』とか言いながら話を流されました。なんとなく言ってはダメだったことのような気がして、あれから二度とそのことについて口は出していません」
父親は今何をしているのかも知らない存在で、母親とは連絡は取っているもののコロナ禍もあり会うことは自粛している状況とのこと。一人暮らしを始めてから徐々に気を遣う存在に母親もなってしまっているそう。
「父親は過去の人みたいに今は何も知りません。一応親族なので何か病気とかがあれば連絡があると思うのでとりあえず元気ではあると思います。母親とは父親のことを話せなくなり、会話を選ぶようになってきましたね。母親も一度婚約破棄を経験している娘に言いにくいのか、結婚について何か言ってくることはなく、気を遣われているのかも。この関係がうまくいっているのかと言われたらそうじゃないとは思いますが、今さら距離を縮める何かがあるわけでもなくて……。母親のことは好きだという思いはありますが、前のような関係に戻りたいのかどうかもわからない状態です」
取材・文/ふじのあやこ
情報誌・スポーツ誌の出版社2社を経て、フリーのライター・編集者・ウェブデザイナーとなる。趣味はスポーツ観戦で、野球、アイスホッケー観戦などで全国を行脚している。