キャットアジリティーに挑戦してくれたあまねちゃん(3歳)。

以前、当欄でも紹介したことのあるキャットアジリティー。動物行動学者の入交眞巳先生著の『猫が幸せならばそれでいい』(小学館刊)で紹介されて、興味を抱いたという人もいるかと思います。今回は、実際に愛猫さんとキャットアジリティーに挑戦した方の動画をご紹介します。

* * *

キャットアジリティ―という、猫と飼い主さんが一緒に楽しむトレーニングが猫好きさんの間で注目を集めています。

アジリティー(agility)は直訳すると、「俊敏性」「機敏」「軽快」といった意味。バーの上を歩いたり、ジャンプしたり、走ったりといった様々な運動を組み合わせたトレーニングで、室内でも行なうことができるのが魅力です。

運動のみならず、飼い主さんと一緒に行なうことで、遊び感覚でできるため、猫にとっては飼い主さんとの楽しいコミュニケーションの時間になります。ストレス発散にもなりますし、達成した時におやつをもらえると、狩猟本能(狩りをして食糧を得る)を満たすことにもなります。

猫の年齢も問いません。前述の通り、猫は学習能力のある動物です。それが歳と共になくなるわけではないからです。楽しいなど何かメリットがあるとわかれば、やってくれます。

むしろ、若い猫はキャットタワーや棚の上に自分から飛び乗って運動したりしますが、歳を重ねるごとにあまり運動しなくなっていきます。

人間と同じで、猫も歳をとってくると生活にすっかり慣れ、高いところに登ることにも飽きてきたりします。でも、肥満や腎不全などの病気のリスクも、歳をとっていくにつれて高まっていくもの。だからこそ、ある程度成長した猫にこそ、キャットアジリティーに挑戦して欲しいのです。

キャットアジリティーのトレーニング。クリッカーの音の合図に加え、指示の際にはターゲティングと呼ばれる棒などで誘導すると覚えやすい。できたらほめる&おやつを忘れずに。

キャットアジリティ―にチャレンジ

さて、そのキャットアジリティー。実際に挑戦したというインスタグラマーのshigureさんの愛猫しぐれ君(アメリカンカール、8歳)とあまねちゃん(雑種の三毛、3歳)のチャレンジ動画を見せてもらいました。

しぐれ君とあまねちゃんのトレーニングには、飼い主のshigureさんと娘さんが協力してくれました。

こちらの動画は、チャレンジ開始から3日間にわたってトレーニングをしたときの様子をまとめたもの。クリッカーという音の出る道具を使って練習をしています。まずは、特定の音を聞くとおやつがもらえたり、褒めたりしてもらえる、と学習させます。それがわかってきたら、動きを取り入れて、飼い主さんが指示した動きをするとクリッカーがカチっとなり、おやつがもらえる、という一連の動きを学んでいきます。

入交先生の『猫が幸せならばそれでいい』には、こうした学習による行動が「オペラント条件付け」による行動であることが書かれています。クリッカーはわかりやすい音による合図ですが、クリッカーがなくても、猫が合図と認識できるものであればなんでもいいようです。おやつだけでも、トレーニングは可能とのこと。

動画を見る限り、しぐれ君とあまねちゃん、音とおやつはどうやら頭の中でリンクしているようですが、運動に関してはまだ半信半疑というか、やったりやらなかったりのようです。

大切に育てられているしぐれ君とあまねちゃんは、もしかしたら言うことを聞かなくても、飼い主さんがちゃんとおやつをくれたりかわいがってくれたりすることを知っているのかもしれません。

入交先生に紹介して頂いた、アメリカのある少年が保護施設から引き取った成猫の動画では、猫が少年と一緒に毎日トレーニングをして、日々、グレードアップ。1か月でハードルを飛び越えたり走ったり潜ったりといった様々な動きの取り合わせを素早く的確にできるようになっていました。

入交先生曰く、保護された猫は、ごはんやおやつにいつありつけるかわからないことを知っています。そうやって一緒にトレーニングをするうちに、飼い主さんとの信頼関係が強くなり、絆ができてきますが、最初のうちはとにかくおやつが欲しくて頑張るというわけです。逆に、しぐれ君とあまねちゃんのように、すっかり飼い主さんとの間に信頼関係ができあがっていると、「どうせおやつ、出るんでしょ?」と思われてしまうのかもしれません。

そんな場合は、朝起きたばかりやごはんの前など、お腹がすいている時にトレーニングをするといいようです。これが終わればごはんの時間、と最初のうちは期待するようになります。やがて、キャットアジリティーを飼い主さんと楽しんでからごはん、という生活のリズムができるようになっていきます。ただし、おやつの与えすぎはかえって肥満や病気のもとなので、注意が必要だと入交先生は言います 。

「おやつの与え過ぎは肥満になるので、いつも与えている食事用のドライフードを報酬として使うといいですよ。体重や健康状態に応じて1日の食事の量を計っておいて、その中から一部をトレーニングの報酬用として使えば、肥満やおやつのあげすぎの心配はありません。トレーニングの最初のころは、何が始まるかわからないので、おいしいおやつを使わないとのってこないかもしれませんが、やがて大好きな家族と行なうトレーニング自体が楽しくなってくるので、報酬をフードにしてもノリノリになってきます」

しぐれ君とあまねちゃんに習って、筆者の14歳の愛猫もちょっとがんばってみました。最近ダイエットに成功して7キロですが、ちょっと前までは8キロという肥満児(今でも肥満ですが)。食っちゃ寝は誰に似たのかわかりませんが、運動する気はさらさらありませんでした。

でも、キャットアジリティーを取り入れたところ、おやつがもらえるとわかり、テンション高めに運動してくれるようになりました。もう少し続けたら、トンネルを置いたり、ジャンプするハードルを置いたり、走り抜けるバーを置いたりして、部屋の中に運動用のコースを設けてみたいと考えています。

猫たちのトレーニング進捗は、いずれまたご報告できればと思っています。

トレーニング開始から5日ほどで、筆者の愛猫もだいぶ慣れてきた様子。ただ、途中で飽きてしまうのが玉に瑕。

入交眞巳(動物行動学者)
日本獣医畜産大学(現日本獣医生命科学大学)卒業。都内の動物病院にて勤務後、米国バヂュー大学で学位取得、ジョージア大学付属獣医教育病院獣医行動科レジデント課程を修了。アメリカ獣医行動学専門医の資格を有する。北里大学獣医学部講師、日本獣医生命科学大学獣医学部講師を経て、どうぶつの総合病院・行動診療科主任、日本ヒルズ・コルゲート株式会社の学術アドバイザーを務める。現在、東京農工大学特任講師をはじめ、各地の獣医科大学の非常勤として教鞭もとる。著書に『猫が幸せならばそれでいい』(小学館)。

文/一乗谷かおり

 

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