取材・文/編集部

中華料理の料理人にとって、鍋は最も重要な道具である。炒める、揚げる、煮る、蒸す、すべての作業をこの中華鍋ひとつでこなす。強火の上で一日中ふるう鍋。それだけに鍋選びの目は厳しい。

中華料理の名店が軒を並べる横浜・中華街。その中華料理店の多くで愛用されている中華鍋のメーカーが、山田工業所である。中華街からもほど近い臨海エリアに工場をかまえる小さな製造元を訪ねた。

企業としての創業は昭和32年だが「その前から中華鍋を作っていたよ」と語るのは、同社2代目社長の山田豊明さん。

「戦後すぐで、とにかく料理道具がなかった時代。日本蕎麦の店で働いていた先代の親父が、ドラム缶をハンマーでたたいて鍋を作ったのが始まりです。なんせ道具だけでなく材料の鉄もなかったからねえ」

最初は近所や浅草合羽橋の道具街で販売を始め、徐々に販路を広げていった。手作りの中華鍋を抱えて、父親と一緒に蒸気機関車で名古屋や大阪へと商談にいったことを、山田社長は懐かしく覚えているという。

山田工業所の中華鍋を特徴づけるのは、なんといっても「打出し」による製法。つまり一枚の鉄板を何度も叩いて成形していくのだ。金型を使い圧力をかけて一気に成形する「プレス方式」による生産が一般化しているなか、打出し製法で鉄の鍋を作っているのは、全国でもここ山田工業所だけである。そして多くのプロ料理人が山田工業所の鍋を選ぶのも、この製法だからこその利点を評価してのことだ。

打出しの鍋の特徴は、まずなによりも軽いこと。一般的なプレス式の鍋と持ち比べればその差は瞭然だ。

「うちの鍋は鉄の板を薄さ1〜2ミリになるまで何千回も叩いて成形していきます。その過程で鉄から不純物が叩き出されて軽くなるんです。プレスの1ミリと打出しの1ミリでは別物です」と山田社長。同じサイズの鍋でも80〜90グラムは軽くなるという。「料理人にとっての負担も大きく変わります。うちの鍋なら腱鞘炎になる心配も減ります」。

軽さだけではない。打出し製法は強度も向上させる。そして全体を均一に伸ばすプレス式と違って、部分的に薄さに変化をつけられる。「例えば火の当たる底の部分は薄く作ります。そのため熱伝導もよくなり、素材に火が通りやすくなります」これほどメリットの多い打出し製法の鍋、なぜ他では作っていないのだろうか。

「うちでは鍋を打ち出す工作機械からすべて自前で作っています。長年の経験もあります。他ではちょっと真似できないと思いますよ」と山田社長は胸を張る。

階下の工場へ降りていくと、カンカンとリズミカルに金属を叩く音が絶え間なく響いている。工場内は声が聞こえにくいので、手話やハンドサインを使って会話することもあるという。3代目になる山田憲治さんに案内してもらう。

「鍋づくりの工程は、鉄の板をカットして型抜き(ブランキング)し、これを打ち上げていきます。全体の形をつくり、縁を上げ、そして全体をならしていきます。鍋の大きさによって変わりますが、一般的な鍋で4000〜5000回は叩くことになります」

工場内では、熟練の職人たちが打出し機械の前で黙々と作業を進めている。手作業でも寸分たがわぬ鍋が打ち出され、積み上げられていく。しかもアール(曲面)や薄さも注文に応じて変えているという。見事な技である。

山田工業所では少量だが鉄のフライパンも作っている。底面が平たく縁の立ち上がりが急なフライパンは、中華鍋とは異なる叩きの技術が求められるという。

熱伝導率が低く熱くなりにくいチタンのハンドルを付けたHANAKOシリーズは、大阪にある調理器具製造・販売元のアドバンスドアとの企画商品。一般家庭での利用を考え、IH含むオール熱源対応にした。

「強い火力で酷使される業務用の中華鍋は100日くらいが寿命とされていますが、家庭料理で使う程度であれば、一生モノどころか孫の代まで使えます。鉄の鍋は直火で使っていくうちに外側に炭素がコーティングされ、火の通りがまろやかになっていきます。また油が馴染んでいくことで、焦げにくくなっていきます。使い込むほどに良くなる鍋です」(山田社長)

まさに鉄鍋ひとすじ。プロの料理人も認めた山田工業所謹製の打出し製法の鉄鍋を、家庭料理で存分に使える鉄のフライパン。形状もシンプルで「用の美」を感じさせる。使い込んで、育てていきたい逸品である。

取材・文/編集部

今回取材した山田工業所の鉄打出しフライパン「HANAKO」は、小学館の通販メディア「大人の逸品」で販売しています。
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