選評/林田直樹(音楽ジャーナリスト)
指揮者リッカルド・ムーティの芸境が最円熟期を迎えている。その最高の成果ともいえるディスクが『ブルックナー:交響曲第2番、R.シュトラウス:町人貴族』だ。
これは2016年夏のザルツブルク音楽祭、75歳でのライヴだが、名コンサートマスターとして45年間をつとめあげたライナー・キュッヒルがウィーン・フィルを率いる最後の公演ともなったもの。
「町人貴族」の軽やかさと引き締まり具合もいいが、やはりブルックナーがいい。いまのムーティの一番の魅力は、音楽がクライマックスにおいて膨張してふくれあがり、巨大なうねりをもたらす、あのスケールの大きさにある。その秘密は、息の長さだ。ひとつのフレーズを、旋律を、とてつもなく大きな呼吸のなかで把握する。ダイナミズムも強烈だ。とりわけスケルツォでのティンパニの強打は、何度聴いてもしびれる。ブルックナーはこうでなくてはならない。
激しく、熱く、気宇壮大に、聴き手を大きく包み込み、魂を高揚させ、奮い立たせてくれる。頑固一徹に醸造された古いワインのような、ウィーン・フィルの香り高い響きを堪能できるアルバムである。
【今日の一枚】
『ブルックナー:交響曲第2番、R.シュトラウス:町人貴族』
リッカルド・ムーティ指揮 ウィーン・フィル、
ゲルハルト・オピッツ(ピアノ)
2016年録音
発売/ユニバーサル・ミュージック
電話/045・330・7213
商品番号/UCCG-1784~5(2枚組)
販売価格/3500円
文/林田直樹
音楽ジャーナリスト。1963年生まれ。慶應義塾大学卒業後、音楽之友社を経て独立。著書に『クラシック新定番100人100曲』他がある。『サライ』本誌ではCDレビュー欄「今月の3枚」の選盤および執筆を担当。インターネットラジオ曲「OTTAVA」(http://ottava.jp/)では音楽番組「OTTAVA Salone」のパーソナリティを務め、世界の最新の音楽情報から、歴史的な音源の紹介まで、クラシック音楽の奥深さを伝えている(毎週金18:00~22:00放送)
※この記事は『サライ』本誌2018年4月号のCDレビュー欄「今月の3枚」からの転載です。