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趣味・教養

書家・岡本光平さんに聞いた「書」を創作して遊ぶ楽しみ

取材・文/松浦裕子

書を志す者なら、いつかは実現させたい表現が、“創作”である。前回、《古来の名筆から書を磨く「臨書」基本の心得》で臨書についてご指導いただいた、書家・岡本光平さんは次のように語る。

「創作=自由奔放な字、と思われがちですが、実は創作も、臨書の鍛錬の上に成り立っています。書の経験を積んでいない人が、いきなり創作に挑んでも上手くいきません。先人の書を臨書することで、筆さばきや、余白空間の使い方、緻密さや大胆さ、イメージを盛り込む技などが身に付きます。そこに自分の創造力を加えると、個性ある作品が誕生するのです」

木の枝や箒など、身近な素材を筆に仕立てたものを「草木筆」と呼ぶ。写真の「楽」の文字は、箒(ほうき)の草木筆を使って、力強さを表現した。

●指導/岡本光平さん(書家)昭和23年、愛知県生まれ。全国最年少の17歳で毎日書道展入選。36歳で独立し創作活動へ。近年は世界各国の岩画調査をライフワークとし作品に反映。ニューヨーク・ハモンド美術館、 ドイツ・ライプツィヒ国立民族博物館など世界各国で個展を開催。香川県74番札所・甲山寺の大襖46枚に「般若心経曼荼羅」を揮竃。近年、エール大学美術館に作品収蔵された。

真言宗の開祖、空海(774~835)が、竹か板切れのようなものを使って書いた書体「飛白体」の「漢」の文字を、岡本さんが板刷毛を使い臨書。飛白体は中国・唐代の皇帝も用いた書体で、霊力の特に強いものとされた。

※記事の最後に、岡本光平さんが「百均」のいろいろな道具を筆にして書の創作に挑んでいただいた、貴重なスペシャル動画があります。ぜひ併せてご覧ください!

■まずは「倣書」にチャレンジ

臨書から創作に至る過程には、「倣書(ほうしょ)」と呼ばれる制作方法がある。倣書は、ある作者の書風(書きぶり)を用いて、新たに文字や詩文を仕上げた作品のこと。達人の書風をアレンジするために、重要となるのが文字の崩し方だ。

「初心者が倣書や創作で陥りがちなのが、いきなり激しく文字を崩してヘタウマな字を書こうとすること。これでは本来古典が持つ格調を失いかねません。ほんの少しずつ線の質を変える方法を身に付けるといいでしょう」

線を変える方法は以下の通り。
(1)太さを変える。
(2)長さを変える。
(3)運筆の速さを変える。
(4)筆を変える。

「すべてをいっぺんにやろうと思わないで、ひとつずつ試すといいでしょう。字に自信のない人は(4)の筆を変える方法がお勧めです。2本筆を合わせて合筆にしたり、木の枝を筆にすると、味わいのある線が書けます。古典の字形を崩さなくても、筆の力で魅力的な作品に仕上がります」

●「合筆」で書いてみる

文字の力強さを強調させるため、中筆を2本合わせた合筆で、「真」「道」を書いてみる。

合筆で書いた「真」。合筆で生まれる文字のかすれや、線の歪ゆがみを活かして文字の力強さを強調した。

合筆で書いた「道」。一文字でバランスをとるため、半紙を横にし、手本の文字を平体に。余白の空間をなくして均衡をとった。

●草木筆で書いてみる

木の枝や箒など、身近な素材を筆に仕立てたものを「草木筆」と呼ぶ。新しい試みではなく、先人から受け継いだもので、「倣書や創作に取り入れても楽しい」と岡本さんはいう。

「空海は竹か板きれのようなもので、呪術的な『飛白体』の書を遺しました。室町期の僧、一休は、竹の筆で禅の揺るぎない精神を伝えています。筆の素材によって、自分の気持ちを文字に反映できるのも草木筆の魅力です」

作品を創作するときに大切なのは、できるだけ文字に意味をもたせてメッセージを伝えること。

「例えば、“楽”という字でも、はしゃぎたくなるような楽しさもあれば、快い気楽さもある。紙からはみ出すように書いて嬉しさを伝えたり、小さく書いて謙虚さを表したり。自分の感情を文字に込めて書くことは、極めて重要なことです」

また岡本さんは、書を楽しむことも創作の要だという。

「書は、一本の線に心を打たれる墨の表現です。下手でもいいので、誠実に全力で線を引く。そのとき何よりも大切なのが、楽しみながら書くということ。書に対する喜びは、必ず作品に反映されます」

筆にする木の枝の種類は何でもいい。枝の代わりに、割り箸を使っても表現できる。

自分で考えた詩を、木の枝を用いて制作。細い木の枝に墨をたっぷりと付けて運筆。急がずゆっくりと書くのがコツ。

墨だまりを効果的に活用し、文字にメリハリをつけて勢いをもたせた。細い文字ながら迫力が伝わる。

●さらに筆を変えて個性を生みだす

百円均一店(百均)で売られている卓上用箒を、紐でしばって太筆に。剛健な書の表現に向く。

古代の文字を箒の筆で作品にする。「誰でもそれなりに味わい深い線が書けて、字に格好がつきますよ」と岡本さん。

「楽」を箒の筆で仕上げた作品。字の形は同じでも、筆の素材の違いで、印象はがらりと変わる。

「子」を箒の筆で仕上げた作品。子供がのびのびと手を広げる様子を表現。余白の絶妙な空間が、文字を一層際立たせている。

●超個性的な「百均筆」で弘法の筆を体現

「百円均一店(100円ショップ、百均)でも売っている普通のスポンジや、板、段ボールなどでも書けます。色々と試してみてください」と岡本さんは言います。名付けて「百均筆」。

百円均一店で売られているスポンジ刷毛。「かすれ具合が実は丁度いい」と岡本さん。

空海が書いた飛白体の筆運びを参考に、スポンジ刷毛を使って「風」を創作。飛白体は、線のかすれが命。模造紙など墨がにじまない紙のほうが、かすれがきれいに出る。

刷毛をゆらして運筆すると、線が波打ち飛白体に。立てたり寝かしたりして、線の強弱をつける。筆運びのスピードを変えながら、刷毛の勢いで表現する。

岡本さんの飛白体作品「風」。

このユニークすぎる「百均筆」の数々を使った、面白すぎる書の表現を、動画でぜひご覧ください。名付けて「書の自由問題」。まさに弘法筆を選ばず、の境地です。

取材・文/松浦裕子 写真/茶山浩

※この記事は『サライ』本誌2016年12月号より転載・加筆しました。

【お知らせ】岡本光平さんの個展「花黙不言」が2018年3月16日~25日にかけて、ギャラリー五峯(東京・下井草)で開催されます。また同じく個展「猛虎、まかり通る」が5月1日~7日にかけてギヤルリ・サロンドエス(東京・銀座)で開催されます。詳しくは各ギャラリーにお問い合わせください。

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