取材・文/松浦裕子
書を志す者なら、いつかは実現させたい表現が、“創作”である。前回、《古来の名筆から書を磨く「臨書」基本の心得》で臨書についてご指導いただいた、書家・岡本光平さんは次のように語る。
「創作=自由奔放な字、と思われがちですが、実は創作も、臨書の鍛錬の上に成り立っています。書の経験を積んでいない人が、いきなり創作に挑んでも上手くいきません。先人の書を臨書することで、筆さばきや、余白空間の使い方、緻密さや大胆さ、イメージを盛り込む技などが身に付きます。そこに自分の創造力を加えると、個性ある作品が誕生するのです」
※記事の最後に、岡本光平さんが「百均」のいろいろな道具を筆にして書の創作に挑んでいただいた、貴重なスペシャル動画があります。ぜひ併せてご覧ください!
■まずは「倣書」にチャレンジ
臨書から創作に至る過程には、「倣書(ほうしょ)」と呼ばれる制作方法がある。倣書は、ある作者の書風(書きぶり)を用いて、新たに文字や詩文を仕上げた作品のこと。達人の書風をアレンジするために、重要となるのが文字の崩し方だ。
「初心者が倣書や創作で陥りがちなのが、いきなり激しく文字を崩してヘタウマな字を書こうとすること。これでは本来古典が持つ格調を失いかねません。ほんの少しずつ線の質を変える方法を身に付けるといいでしょう」
線を変える方法は以下の通り。
(1)太さを変える。
(2)長さを変える。
(3)運筆の速さを変える。
(4)筆を変える。
「すべてをいっぺんにやろうと思わないで、ひとつずつ試すといいでしょう。字に自信のない人は(4)の筆を変える方法がお勧めです。2本筆を合わせて合筆にしたり、木の枝を筆にすると、味わいのある線が書けます。古典の字形を崩さなくても、筆の力で魅力的な作品に仕上がります」
●「合筆」で書いてみる
●草木筆で書いてみる
木の枝や箒など、身近な素材を筆に仕立てたものを「草木筆」と呼ぶ。新しい試みではなく、先人から受け継いだもので、「倣書や創作に取り入れても楽しい」と岡本さんはいう。
「空海は竹か板きれのようなもので、呪術的な『飛白体』の書を遺しました。室町期の僧、一休は、竹の筆で禅の揺るぎない精神を伝えています。筆の素材によって、自分の気持ちを文字に反映できるのも草木筆の魅力です」
作品を創作するときに大切なのは、できるだけ文字に意味をもたせてメッセージを伝えること。
「例えば、“楽”という字でも、はしゃぎたくなるような楽しさもあれば、快い気楽さもある。紙からはみ出すように書いて嬉しさを伝えたり、小さく書いて謙虚さを表したり。自分の感情を文字に込めて書くことは、極めて重要なことです」
また岡本さんは、書を楽しむことも創作の要だという。
「書は、一本の線に心を打たれる墨の表現です。下手でもいいので、誠実に全力で線を引く。そのとき何よりも大切なのが、楽しみながら書くということ。書に対する喜びは、必ず作品に反映されます」
●さらに筆を変えて個性を生みだす
●超個性的な「百均筆」で弘法の筆を体現
「百円均一店(100円ショップ、百均)でも売っている普通のスポンジや、板、段ボールなどでも書けます。色々と試してみてください」と岡本さんは言います。名付けて「百均筆」。
このユニークすぎる「百均筆」の数々を使った、面白すぎる書の表現を、動画でぜひご覧ください。名付けて「書の自由問題」。まさに弘法筆を選ばず、の境地です。
取材・文/松浦裕子 写真/茶山浩
※この記事は『サライ』本誌2016年12月号より転載・加筆しました。
【お知らせ】岡本光平さんの個展「花黙不言」が2018年3月16日~25日にかけて、ギャラリー五峯(東京・下井草)で開催されます。また同じく個展「猛虎、まかり通る」が5月1日~7日にかけてギヤルリ・サロンドエス(東京・銀座)で開催されます。詳しくは各ギャラリーにお問い合わせください。