険悪ムードの秀吉(左/演・池松壮亮)と勝家(演・山口馬木也)。(C)NHK

ライターI(以下I):『豊臣兄弟!』第19回では、このころはまだ存命だった越後の上杉謙信(演・工藤潤矢)が織田信長(演・小栗旬)の軍勢と北陸で対峙していた様子が描かれました。

編集者A(以下A):織田信長は武田家と蜜月時代がありましたが、上杉謙信とも友好関係を結んでいた時期がありました。上杉家から信長に鷹が贈られたり、信長から謙信に対して南蛮のビロードマント(赤地牡丹唐草文天鵞絨洋套)が贈られたりしています。今は国宝になっている『上杉本洛中洛外図屏風』が信長から謙信のもとに贈られたのは、わずか3年前のことです。

I:ビロードマントは天正2年(1574)に贈られたものですね。現在、上杉神社に蔵されていて、『信長全史』(小学館)で写真が掲載されていますね。

A:この頃の東日本は、信長による桶狭間の合戦以降情勢が混沌としていて、ややこしいことこの上ないのですが、北陸では織田軍と上杉軍が合戦に及んだということです。『信長公記』には、柴田勝家を大将として、滝川一益、羽柴秀吉、丹羽長秀、斎藤利治、氏家直通、安藤守就、稲葉良通、不破光治、前田利家、佐々成政、原政茂、金森長近らが出陣していたことが記されています。『豊臣兄弟!』に登場していない武将もいるので、少し紹介すると、斎藤利治は斎藤道三の末子で、道三亡き後に、信長のもとに身を寄せていました。なかなか大河ドラマには登場しないのですが、濃姫の弟でもありますから、信長にとっては義弟になります。後に信長嫡男信忠の側近として厚遇されますが、本能寺の変の際に、信忠とともに討ち死にしてしまいます。

I:私は、斎藤利治をもっととりあげてほしいと思うんですけどね。信長と濃姫、斎藤利治の絆なんておもしろいと思うのですが……。

A:確かに、柴田勝家大将のもとで従軍している氏家、安藤、稲葉、不破、原は斎藤旧臣の美濃衆ですからね。私は美濃衆が調略に応じたのは、斎藤利治の存在が大きかったのではないかと想像したりするのですが、実際はどうだったのでしょうか。

I:ということで、本編では、秀吉(演・池松壮亮)が柴田勝家(演・山口馬木也)と対立して、こともあろうに勝手に長浜に帰陣してしまったのです。『信長公記』にも「羽柴筑前、お届をも申上げず帰陣仕候段、曲事の由御逆鱗なされ、迷惑申され候」と信長が激怒したことが記されています。信長を激怒させる行為だったんですね。

織田信長(演・小栗旬)の軍勢と戦を交えた上杉謙信(演・工藤潤矢)。(C)NHK

激怒した信長と覚悟を決めた秀吉

A:このくだりは、大河ドラマでは1981年の『おんな太閤記』、1996年の『秀吉』でも描かれています。『おんな太閤記』では、戦わずにまずは調略をしかけようという秀吉(演・西田敏行)の進言を勝家(演・近藤洋介)が「足軽あがりに何がわかる。お主の指図は受けぬわ」と拒絶して、軍議の場が一気に険悪な雰囲気に包まれます。売り言葉に買い言葉ということで、秀吉は「勝家殿は足軽あがりの秀吉の助けはお気に召さぬとみえる。即刻兵を引きましょう」と、秀吉の盟友前田利家(演・滝田栄)が必死の形相で止めるのも聞かずに、「打ち首、切腹も覚悟の上じゃ」と長浜への帰陣を強行します。中村雅俊さん演じる小一郎秀長も同調していたのが印象的です。

I:信長(演・藤岡弘/現・藤岡弘、)の反応はどうだったのでしょうか。

A:「謀反じゃ、謀反と同罪じゃ。容赦はせん」と怒り心頭で、安土まで秀吉が弁明に訪れても「斬られに来たのか?」といいだす始末。結局、長浜城で蟄居謹慎ということになったのです。ここから秀吉は、長浜城で連日連夜酒宴を催し、信長側近への付け届けをして、猜疑心の強い信長に謀心無きことを示したのです。秀吉の散財をこころの底から心配するねね(演・佐久間良子)の姿が印象的でした。ところが、このタイミングで起こったのが松永久秀の謀反。秀吉は、松永久秀を攻めるために信長から許されたという展開になるのです。

I:なるほど。

A:この流れの中で、上杉謙信が作ったといわれる、「九月十三夜陣中作」の漢詩が間者のみつ(演・東てる美)によって秀吉のもとにもたらされます。

霜は軍営に満ちて秋気清し
数行(すうこう)の過雁(かがん)月三更(つきさんこう)
越山併せ得たり能州の景
さもあらばあれ家郷遠征を憶ふ

I:上杉謙信のこの漢詩ですが、『おんな太閤記』では劇中で秀吉が詠じました。上杉謙信の有名な漢詩ではありますが、1981年当時は、台詞の中で詠じても視聴者には理解してもらえるということだったのでしょうか。

首桶を持ったおねが安土に

A:1996年の『秀吉』でも、軍議の席での秀吉(演・竹中直人)の進言は勝家(演・中尾彬)に採用されませんでした。この時、感情的に勝家が「サルっ」と叫んだことに秀吉が激高。「羽柴筑前守秀吉をサルと呼んだな」ということで、前線を離れて、安土に向かうのです。弁明に訪れた秀吉に対して信長(演・渡哲也)は、長浜で沙汰を待てと命じるのですが、前田利家(演・渡辺徹)に対して、「サルに腹を切れと。介錯はお前がせい」と命じ、秀吉は絶体絶命の危機に陥ります。

I:切腹命令なんですね。

A:信長の命を秀吉に伝えに長浜を訪れた利家ですが、その時、なぜか妻女とともに長浜城に来ていた秀吉の盟友石川五右衛門(演・赤井英和)が太鼓をたたき、にぎやかな音曲を奏でて、歌い踊りながら利家の前に現れます。女装した秀吉も派手に踊り、五右衛門の妻と京都で浮気したと「告白」します。

I:なぜいま、そんなことをいう? という場面でしたが、それをきいたおね(演・沢口靖子)の「グーパンチ」が秀吉に炸裂して、秀吉が鼻血を流すという大河ドラマ史上屈指の「珍場面」はこの時のことですね(笑)。

A:おねは単身安土の信長のもとを訪れます。その手には首桶。それを見た信長は一瞬ギョッとした表情を見せますが、すぐに首桶が空だということが露見します。凝視しあうおねと信長。緊迫した時間が流れますが、やおら信長がおねを抱き上げて、椅子に座らせます。ここで信長は吉乃(演・斉藤慶子)が留守なので寂しいから酒の供をせよというのです。

I:異国の酒ですね。

A:おねが信長の目の前で舞を舞い、信長が拍手をおくるという場面が展開されるのです。今、改めて見ると荒唐無稽な感じがしないでもないですが、渡哲也さん演じる信長、沢口靖子さん演じるおねのしびれるほどの熱演がすべてを吹き飛ばした痛快な場面になりました。

I:長浜では前田利家も交えて、飲めや踊れやの大宴会が催されました。そして、『おんな太閤記』『秀吉』に共通しているのは、秀吉正妻ねねの心配する姿だったのです。

『豊臣兄弟!』では「秀吉謀反」をどう描くのか?

I:『豊臣兄弟!』でも柴田勝家と秀吉が衝突します。七尾城を巡って、引くか進むかで口論になりました。勝家が「わしに逆らうは、上様(信長)に逆らうのと同じと心得よ!」と叫ぶと、秀吉は「負けるとわかっている戦で兵を死なせることの方がよほど上様への忠義に反しまする!」と言い放ちます。もともと馬が合わないふたりでしたよね。

A:ちょっと衝撃的だったのは、秀吉が北陸で勝家と衝突していた間に、小一郎(演・仲野太賀)と慶(演・吉岡里帆)のエピソードが展開されていたことでしょうか。「小一郎、出陣していなかったの?」と少しだけ思いました(笑)。

I:それはそれでいいじゃないですか。でも、『おんな太閤記』でも『秀吉』でも松永久秀の問題が事態の転換を促します。ということは、『豊臣兄弟!』でも竹中直人さん演じる松永久秀、登場するかもしれませんね。

A:お、これは見逃せませんね。

与一郎(演・高木波留)を迎えて、ようやく「家族」になれた小一郎(演・仲野太賀)と慶(演・吉岡里帆)。(C)NHK

●編集者A:書籍編集者。かつて『完本 信長全史』(「ビジュアル版逆説の日本史」)を編集した際に、信長関連の史跡を徹底取材。本業では、11月10日刊行の『後世に伝えたい歴史と文化 鶴岡八幡宮宮司の鎌倉案内』を担当。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好き。愛知県出身なので『豊臣兄弟!』を楽しみにしている。神職資格を持っている。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

 

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