花魁誰袖と花魁リレー

I:『べらぼう』の前半は花魁瀬川(演・小芝風花)がヒロイン的な立場で登場して話題を集めました。第17回以降は瀬川が退場して、花魁誰袖(演・福原遥)がその立場を引き継ぐ形になりました。正直、「花魁のリレー」には一抹の不安がありました。

A:「花魁ネタ」が連続して持つだろうかと思ったんですよね。それはまったく杞憂に終わりました。さすが手練れの福原遥さん。明るいキャラに妖艶なキャラを織り交ぜながら、「色恋営業かくあるべし」という「吉原の真髄」を演じています。そして、この誰袖と土山宗次郎(演・栁俊太郎)、花雲助こと田沼意知(演・宮沢氷魚)、松前藩の松前道廣(演・えなりかずき)、廣年(演・ひょうろく)兄弟が複雑にからみあい、さらに一橋家の策謀も蠢動している――。私たちはかねて「大河ドラマとは壮大なるエンターテインメント」であると言及してきました。大河ドラマも64作を迎えて、視聴者も歴史に詳しい方々がたくさんおられる。しかも時代はSNS時代。「その時代に絶対ありえない場面」というのはすぐに喝破されて、物議を醸します。逆に史実をベースにしながら、さまざまな「状況証拠」を駆使して、視聴者をハラハラさせながら物語を展開して、「いや、こっちのほうが史実っぽい」とうならせてくれる場合もあります。

I:『べらぼう』は明らかに後者ということをいいたいのですね。

A:はい。「一橋家の策謀」が展開される中で、そのことが明らかになってきました。いったいこの先物語はどのように転がっていくのか。史実だから着地点はわかっているのだけれども、ドラマとして大いに期待したいところです。

艶っぽい花魁誰袖(演・福原遥)。(C)NHK

橋本愛さんの登場。彼女はどんなキャラなの?

I:さて、蔦重の耕書堂を日本橋に出店させたいという話がいよいよ現実化します。これまでに、吉原の人間は、どれだけ金をもっていようが市中の大店からみれば、一段も二段も下に見られる存在で、土地さえ買えない立場であることが語られてきました。そういう伏線がある中で、さてどうなるのか――。ここで登場したのが、書物問屋「丸屋」が店を売りに出したいという流れでした。

A:すでにアナウンスされていますが、後に蔦重の妻になる「貞(てい)」の登場です。演じているのは橋本愛さん。『西郷どん』(2018年)で西郷隆盛の最初の妻「須賀」、『青天を衝け』(2021年)では渋沢栄一の妻「千代」を演じていますから、「主人公の妻」が板についた感がします。『べらぼう』ではまだ「妻」ではないですが、なんと眼鏡姿での登場です。

I:眼鏡って意外と歴史が古く、戦国時代にはもうあったみたいです。フランシスコ・ザビエルが日本に持ってきて、天文20年(1551)に大内義隆に献上したのが日本で最初の眼鏡だそうです。便利な眼鏡はすぐに大人気になり、諸大名に献上されました。室町幕府将軍の足利義晴も眼鏡を持っていたと言われていますし、徳川家康愛用の眼鏡(目器)は現在も静岡県の久能山東照宮で保管されています。

A:久能山東照宮蔵の「目器」は家康のたくさんの愛蔵品ともども『徳川家康の名宝』(小学館)に掲載されています。スペイン国王から贈られた洋時計、メキシコ産黒鉛のえんぴつ、さらには家康の薬器など、圧巻ですね。

I:さて、眼鏡の話に戻ります。眼鏡はポルトガルや中国から大量に輸入されるようになり、寛永16年(1639)に本格的な鎖国が始まる直前には、年間4万個近くもの眼鏡が日本に輸入されていたそうです。江戸時代中期には国内でも眼鏡が作られるようになりました。貞がかけていた眼鏡も国産品かもしれませんね。今は眼鏡とかコンタクトレンズは一般的ですが、当時はやはりそこそこお金を持っていないと買えなかったと思います。隠居した大店の主とかがかけているイメージですが、本屋に生まれ育って才気ある貞が眼鏡というのは、いい設定だなと思いました。

A:そういえば、日本橋で2018年まで営業していた「村田眼鏡舗」は、眼鏡店に転じたのは明治に入ってからということでしたが、江戸時代も眼鏡を商っていたのでしょうか。鏡師だったようですが。昭和のドラマでは眼鏡は学級委員長がかけていたりするのですが、貞がどのようなキャラクター設定になっているか注目ですね。

眼鏡っ子の貞(演・橋本愛)が登場。(C)NHK

●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ~べらぼう~蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。同書には、『娼妃地理記』、「辞闘戦新根(ことばたたかいあたらいいのね)」も掲載。「とんだ茶釜」「大木の切り口太いの根」「鯛の味噌吸」のキャラクターも掲載。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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