汗が氷柱になる

I:さて、蔦重が恋川春町に執筆してもらいたいという流れから、大勢が集まってネタ出し会議のような展開になりました。「西洋の化け物」「女郎相撲」「赤子だらけの賭場」などありえない設定ばかり飛び出すのがおもしろい。

A:そういうバカバカしい話をわいわいやっている中から、鉱石が見つかるってままありますからね。と、思っていたら「百年先の髷」というフレーズまで飛び出しました。

I:感慨深いですね。実際には、百年経たない段階で、髷がなくなり、「ざんぎり頭を叩いてみれば文明開化の音がする」って世の中になっているわけですから。現実は、蔦重らのはるか先をいっているということになりますね。

A:ということで、恋川春町は、聖徳太子の『未来記』を下敷きにした『無益委記(むだいき)』という本をまとめることになります。「12月に初鰹」「夏に汗をかいたら汗が氷柱(つらら)になった」など「???」が満載の、でもクスッと笑える本ですね。髷なんかも現代のパンクロッカーの如く、とんがっていたりしますし。

I:私が笑っちゃったのは、「猫も杓子も芸者になる」というくだりです。恋川春町の猫と杓子の絵なんて、味があってなんだかわくわくしてしまいます。

A:未来予想といえば、明治34年(1901)のお正月に報知新聞が報じた「二十世紀の預言」という記事が、100年後の2001年に話題になりました。23項目のうち半数ほどが実現していたのですが、「人と獣の会話が自在」というのは今もって実現していません(笑)。

I:いま、100年後の未来を予想するときに、蔦重や報知新聞のように、わくわくできる項目がどれだけあがるでしょうか。さて、鱗形屋が店じまいするということで、鱗形屋で執筆していた作家さんなどの取り扱いが焦点になっていたわけですが、鱗形屋の廃業は身につまされますね。『塩売文太物語』『金々先生栄華夢』や『初めての大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」歴史おもしろBOOK』でも紹介されていた『江都二色』などヒット作、話題作がたくさんあります。

A:『江都二色』は、当時のおもちゃをまとめた本で、北尾重政が絵を描いているんですよね。奈良市の奈良町にある奈良町からくりおもちゃ館にも写しが展示されていました(実物も所蔵、保管されている)。偽板に手を染めたとはいえ、一世を風靡した版元が廃業するのは切ないですね。

I:鱗形屋さんの退場、なんだか寂しいですよね。

惜しまれつつ廃業する鱗形屋(演・片岡愛之助)。(C)NHK

●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ~べらぼう~蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。同書には、『娼妃地理記』、「辞闘戦新根(ことばたたかいあたらいいのね)」も掲載。「とんだ茶釜」「大木の切り口太いの根」「鯛の味噌吸」のキャラクターも掲載。

●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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