はじめに-朱楽菅江とはどのような人物だったのか

朱楽菅江(あけら・かんこう)は、江戸後期に活躍した狂歌師であり、洒落本や川柳の世界にも足跡を残した文人です。大田南畝(おおた・なんぽ)、唐衣橘洲(からごろも・きっしゅう)とともに「狂歌の三大家」と称され、天明期の江戸文芸界を代表する存在として知られています。日常の機微や世相を軽妙にすくい取った作風は、今なお洒脱な知性を感じさせます。

そんな朱楽菅江ですが、実際にはどのような人物だったのでしょう。史実をベースに紐解きます。

2025年NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』では、蔦重とともに狂歌本を何冊も出す人物(演:浜中文一)として描かれます。

‎朱楽菅江
朱楽菅江

目次
はじめに-朱楽菅江とはどのような人物だったのか
朱楽菅江が生きた時代
朱楽菅江の生涯と主な出来事
まとめ

朱楽菅江が生きた時代

18世紀後半の江戸は、庶民文化が大きく花開いた時代でした。町人を中心とした読み物や詩歌、風俗が活況を呈し、滑稽や風刺を通じた表現が人気を集めました。

一方で、田沼意次の経済政策から松平定信による寛政の改革へと移行する中、風紀の引き締めや出版統制といった動きも強まり、文人たちは変化する社会の中で表現の在り方を模索していくことになります。

朱楽菅江もまた、こうした時代の波の中で、文筆活動に変化を余儀なくされた人物でした。

朱楽菅江の生涯と主な出来事

朱楽菅江は元文3年(1738 ※1740年という説もあり)に生まれ、寛政12年(1800)に没しました。その生涯を、出来事とともに紐解いていきましょう。

学びと文芸への道

朱楽菅江は、本名を山崎景貫といい、通称を郷助といいました。江戸・市谷(いちがや)に住む幕臣の家に生まれ、内山賀邸(うちやま・がてい)に学びます。はじめは和歌や前句付(まえくづけ)に親しみましたが、やがて同門の大田南畝や唐衣橘洲らに誘われて狂歌を詠むようになり、その作品が思いがけず世間で評判となりました。

大田南畝
大田南畝

狂歌の三大家として

天明3年(1783)、江戸狂歌最初の選集『万載狂歌集(まんざいきょうかしゅう)』を大田南畝とともに編纂し、狂歌人気を決定づけます。天明5年(1785)には、自身の門下「朱楽連」の狂歌をまとめた『狂言鶯蛙集(きょうげんおうあしゅう)』を刊行。

南畝・橘洲と並んで「狂歌の三大家」と称されるようになり、江戸の文芸界に名を刻みました。

朱楽菅江
宿屋飯盛 編 ほか『古今狂歌袋』,蔦屋重三郎,[天明7 (1787)]. 国立国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/pid/2533205

洒落本・川柳など幅広い活動

狂歌のみならず、菅江は南畝と同じく洒落本の作者としても筆を振るいます。『売花新駅(ばいかしんえき)』、『大抵御覧(たいていごらん)』、『雑文穿袋(ざつもんせんてい)』などの作品を残します。

また、牛込蓬莱連(うしごめほうらいれん)という川柳グループにも参加し、安永9年(1780)から『川傍柳(かわぞいやなぎ)』を編纂するなど、多彩な活動を展開しました。

作風の転換と晩年

寛政の改革以後、風紀や表現への統制が厳しくなると、朱楽菅江の作風にも変化が表れます。より和歌に近い表現を志向し、『狂歌大体(きょうかだいたい)』を著して新たな方向性を示しました。

晩年は文壇から一歩引き、門下の指導は妻・節松嫁々(ふしまつのかか、狂名)に託すようになります。寛政12年(1800)12月12日、池之端(いけのはた)の芬陀利華庵(ふんだりげあん)にて没。享年61歳でした。墓は東京都中野区の青原寺にあります。

まとめ

朱楽菅江は、狂歌という軽妙な表現を通じて、江戸の庶民文化を鮮やかに切り取った文人です。戯れから始めた狂歌が時代の潮流と交わり、多くの人々の心をとらえました。洒落本や川柳にも才能を発揮し、江戸文化の幅広さを体現した存在といえるでしょう。

風雅と滑稽のあいだを軽やかに往来したその表現は、今もなお、江戸の知性とユーモアを伝えてくれます。

※表記の年代と出来事には、諸説あります。

文/菅原喜子(京都メディアライン)
肖像画/もぱ(京都メディアライン)
HP:http://kyotomedialine.com FB

引用・参考図書/
『日本大百科全書』(小学館)
『世界大百科事典』(平凡社)
『日本人名大辞典』(講談社)
『国史大辞典』(吉川弘文館)

 

関連記事

ランキング

サライ最新号
2025年
7月号

サライ最新号

人気のキーワード

新着記事

ピックアップ

サライプレミアム倶楽部

最新記事のお知らせ、イベント、読者企画、豪華プレゼントなどへの応募情報をお届けします。

公式SNS

サライ公式SNSで最新情報を配信中!

  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
  • LINE

小学館百貨店Online Store

通販別冊
通販別冊

心に響き長く愛せるモノだけを厳選した通販メディア

花人日和(かじんびより)

和田秀樹 最新刊

75歳からの生き方ノート

おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店
おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店