「身請け拒絶」の瀬川に松葉屋がとった仕打ち
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I:『べらぼう』では出版界のことを描いている関係で、当時のベストセラーが度々登場します。前週は『金々先生栄花夢』と『女重宝記』が出てきましたね。
A:『初めての大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」歴史おもしろBOOK』では、『金々先生栄花夢』と『女重宝記』や瀬川が愛読している『塩売文太物語』についても詳報していますが、蔦重が瀬川にわたしていた『女重宝記』は女性向けの指南書、有り体にいえば「婚活本」で、何度も刷られたベストセラーでした。
I:さて、そうした中で、瀬川の身請けに関して、蔦重は断るように仕向けます。幼いころからの馴染みの瀬川がいなくなるという焦燥もある一方で、「瀬川襲名」でせっかく吉原への人出が戻ってきたのに、当の瀬川が身請けで吉原から去ると、客入りがもとに戻るのではないかという打算もあったかと思います。その瀬川に対して松葉屋がとった手段が、一晩に5人もの客を取らせるという残酷な仕打ちでした。
A:吉原の本性があらわになった場面です。前出のように女郎は宗門人別改帳からも除外されているような存在。忘八どもにとって女郎は、「商品」でしかないということですし、稼げる従順な女郎にはよくする素振りを見せても、少しでも反旗を翻すと、徹底的に刃を向ける恐ろしい場所だったのでしょう。
I:瀬川と足抜けをすることを考えたり、年季が明けるまで待とうとか思ったりしていた蔦重も、ようやく自分の考えの浅はかさに気づくという流れになりました。蔦重は鳥山検校を罵倒する台詞を発して鳥山検校のことを「この世のヒル」だと断じます。
A:それに対して瀬川が「あんただってわっちに吸い付くヒルじゃないか」と「怒り」をあらわにします。確かに蔦重は瀬川に頼ることが多かったのは事実。私は瀬川の台詞を聞いて、現代のキャバクラなどの水商売などで散見される黒服(マネージャー)による女性従業員を色恋でマネジメントする「色恋管理」を想起し、いったい蔦重の腹の中はどうなっているのか? ふとそんなことが頭をよぎりました。
I:「色恋管理!」。黒服が自らに恋愛感情を持つように接して、その感情を利用してマネジメントするということですね。確かにいわれてみれば、蔦重の態度もそういう側面がないともいえません。子供のころから吉原で暮らしているわけですから、知らず知らずのうちに吉原の「忘八的思考」が染みついていたとしてもおかしくありません。
A:それが「リアルな描写」ということもできるでしょう。人間の業であり、性(さが)でもある。吉原で生きていくには多少なりともそうした側面がなければならなかったというふうに理解しています。でも、蔦重が「いかねえで」と瀬川にすがる場面を見て、蔦重の苦悩も感じられて、蔦重の「本音」はどこにあるのか――。そんなことも思わされました。
I:毎週毎週、九郎助稲荷(演・綾瀬はるか)同様、視聴者も蔦重の鈍感さに呆れてきましたが、今回ようやく自分の気持ちに気付いたわけですよね。でも、両想いを確認できたと思った矢先に、結局瀬川は身請けを受諾することになってしまいました。このふたり、今後どうなっていくんでしょう……。
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●編集者A:書籍編集者。『べらぼう』をより楽しく視聴するためにドラマの内容から時代背景などまで網羅した『初めての大河ドラマ べらぼう 蔦重栄華乃夢噺 歴史おもしろBOOK』などを編集。
●ライターI:文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。猫が好きで、猫の浮世絵や猫神様のお札などを集めている。江戸時代創業の老舗和菓子屋などを巡り歩く。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり
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