私たちが英会話教室へ通い、苦労して学んだ時代は、遠い昔のこととなりつつあるようです。最近では、生成AIで英会話を学んでいる人も少なくないと聞きます。その主な理由が、恥ずかしさを感じずに、気兼ねなく学習できるからだそうです。

しかし、たとえ英語が身についたとしても、先生との人間関係ができないというのは、なんとも味けない感じがいたします。この記事では、生成AIではなく、英会話教室を主宰する池上カノが「the elephant in the room」について解説します。

象

目次
「the elephant in the room」の意味は?
「the elephant in the room」の由来は?
「elephant」(象)には、どんな意味がある?
象に関する他の英語表現
「the elephant in the room」と文学、芸術
最後に

「the elephant in the room」の意味は?

「the elephant in the room」を直訳すると、「部屋の中の象」ですが、そこから転じて

正解は……
「誰もが気づいているのに、あえて触れたがらない大きな問題」を指すフレーズです。

部屋の中に大きな象がいると誰でもわかります。ですが、そのことをあえて話題にしないことを指すユニークな表現になります。

ケンブリッジ辞書によると、「the elephant in the room」は「If you say there is an elephant in the room, you mean that there is an obvious problem or difficult situation that people do not want to talk about.」。
「明らかな問題や困難な状況があるにもかかわらず、人々がそれについて話したくないこと」を意味するとあります。

たとえば、「家族の集まりで、彼の突然の離婚について誰も触れられなかった。」は、「At the family gathering, no one dared to bring up the elephant in the room—his sudden divorce.」などと言います。

「the elephant in the room」の由来は?

「the elephant in the room」という表現は、19世紀ロシアの作家イワン・クルィロフの寓話『好奇心のある男』に由来するといわれています。この寓話の中で、ある男が博物館であらゆる小さなものを見て回ります。しかし、彼は展示されている巨大な象には気づかなかったことが描かれています。

ここから「the elephant in the room」はことわざとして広まり、「明らかにある大きな問題を見て見ぬふりする状況」を表すようになったのです。

「elephant」(象)には、どんな意味がある?

象は、その長い鼻を使い、食べ物や水を巧みに口へ運びます。さらに、鼻を使って水浴びを楽しみ、鼻先の器用な突起で、小さなものから大きなものまで自在に掴むことができるそうです。また、優れた嗅覚と聴覚を持ち、鼻を高く掲げ、遠くの匂いを敏感に感じ取ります。

インドのヒンドゥー教において、象は神様のガネーシャと深く結びついています。知恵と繁栄、そして幸運を象徴するガネーシャは、象の頭を持つ姿で描かれ、障害を取り除き、富をもたらす神として広く信仰されています。商業や学問の守護神として崇められるガネーシャは、インド中で人気が高く、店先や車内にその像を置く光景が日常的に見られます。日本のインド料理店でも、ガネーシャのポスターや置物をときどき目にしますね。

仏教にも取り入れられたガネーシャは、日本では歓喜天や聖天として伝えられ、繁栄や夫婦和合の象徴として親しまれています。仏陀の母マーヤー夫人が白い小象が体に入る夢を見た後、仏陀を宿したという逸話もあり、象は仏教においても神聖な存在としてしばしば登場しますね。

さらに、中国においても、象は幸福や長寿の象徴とされ、家に象の絵や像を飾ることで幸運を招くと信じられてきました。「象(シアン)」と同じ音を持つ「祥(シアン)」が幸運を意味するため、象は平和と繁栄をもたらす存在として尊ばれてきました。

このように、象はさまざまな文化で尊敬され、豊かな意味を持つシンボルとして、私たちの生活や信仰に深く根付いています。

象に関する他の英語表現

象にまつわるイディオムは他にもあります。

「white elephant」

古代タイでは、白い象が神聖視されていました。そのため、白い象を贈られた人は、その象を労働に使うことも処分することもできず、ただエサ代だけがかさんでしまって困りました。このため、「white elephant」は「無用の長物」や「厄介者」を意味するようになりました。

「Elephants never forget. 」

「Elephants never forget.」(象は忘れない)という表現もあります。象は優れた記憶力を持っているため、いいことも嫌なことも覚えているという意味でユーモアを交えて使われることがあります。

「the elephant in the room」と文学、芸術

さまざまな表現の中に登場する象ですが、総じて温厚で知性があり、幸運と平穏を招くイメージは共通しているように思います。

「the elephant in the room」というフレーズは、文学やアート、音楽など幅広い分野でも引用されています。ドストエフスキーの『悪霊』にも登場し、現代では楽曲やコメディ、映画のタイトルにも使われています。アーティストのバンクシーも、2006年に本物の象にペイントを施した作品で議論を巻き起こしました。

誰もがわかる大きな問題をごまかしてしまう、人間の哀しさと滑稽さを表現する言い回しとして広く使われています。

最後に

象は多くの文化で知恵や繁栄、安定、幸福の象徴のようです。その象がいるのに気付かないフリをする「The elephant in the room」(誰もが気づいているのに触れたくない大きな問題)。

みんなが触れたくない大きな問題にこそ、幸せに近づく宝物が隠れているのかもしれませんね。

次回もお楽しみに!

●執筆/池上カノ

日々の暮らしやアートなどをトピックとして取り上げ、 対話やコンテンツに重点をおく英語学習を提案。『英語教室』主宰。  京都祇園にある建仁寺塔頭両足院をベースに、ひとつのテーマについて英語で語りあう『うごく哲学』を対面とオンラインで定期開催。その他、他言語を通して、それぞれが自分と出会っていく楽しさや喜びを体感できるワークショップやイベントを多数企画。

●構成/京都メディアライン・https://kyotomedialine.com

 

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