問題:どろぼうたちが、盗んだ絹の反物を橋の下で分けています。橋の上を通りかかった人がその声を聞いたところ、反物を7反ずつ配ると8反余り、8反ずつ配ると7反足りないといいます。このとき、反物は全部で何反あるでしょう。

「盗人算」(ぬすびとざん)といわれるこの問題は、江戸初期の京都の和算家・吉田光由(よしだ・みつよし)が、著書である和算の入門書『塵劫記』(じんこうき)に掲載したものです。 さて、この問題、あなたはスラスラと解くことができますか?

江戸時代の日本で花開いたユニークな算数を楽しもう!

「数や形の遊びから、高度な円周率の計算や微分・積分など、江戸時代の日本でユニークな算数・数学の文化が花開きました。それを明治時代以降、ヨーロッパ生まれの『洋算』(ようさん)とは異なる、日本独自の算数・数学として『和算』(わさん)と呼ぶようになりました」

というのは、小学4年生からおとなまでを対象とした和算の入門書『絵解き 和算ドリル』(小学館)を著した日本史学者の西田知己さん。

「吉田光由が『塵劫記』を書いたのは、江戸時代が始まって間もない1627(寛永4)年のこと。そろばんの使い方から始まり、さまざまな計算問題や図形問題を紹介したこの本は大ヒットしました。

そして江戸時代の学習塾・寺子屋などで大いに使われ、子どもたちの計算力や暗算の力はみるみるうちにアップしました。実は江戸時代の子どもたちの学習レベルは、現代のおとなも顔負けだったのです」

寺子屋でそろばんの練習をする子どもたち。右上が師匠。●高井蘭山・編『江戸大節用海内蔵』1861(文久元)年。著者蔵。

「同時に、この本をまねた、同じ題名の本も数多く出回りました。そして、吉田光由のライバルだった和算家たちは、『塵劫記』以上の本を作ろうと研究を積み重ねました。

そうなると吉田光由も負けてはいられません。新しく書き直した『塵劫記』を次々に刊行し、盗人算や油分け算、薬師算といった目新しい問題を追加していきます(※冒頭の「盗人算」の出典は1631(寛永8)年刊)。

吉田光由が亡くなった後も、さらには明治時代になっても新版の『塵劫記』が出版され、その数は合計400種類に達しています。 こうして『塵劫記』は当時、最も有名な和算の入門書となったのです」

江戸の世に大いに広まり、子どもからおとなまでを熱中させた和算には、馬乗り算や旅人算など、江戸時代の生活を描いたような文章題がいくつもあります。

『絵解き 和算ドリル』の「馬乗り算」のページ。この問題の原案も吉田光由『塵劫記』1634(寛永11)年刊。

盗人算やつるかめ算などでは、中学校で学習する方程式を使った解き方だけでなく、小学校で学習する図形の面積を使った解き方も考え出されました。

『絵解き 和算ドリル』の「つるかめ算」のページ。この問題の出典は、千葉胤秀(ちば・たねひで)『算法新書(さんぽうしんしょ)』1830(文政13)年刊。

「このように、同じ答えになる問題でも、和算には問題の見せ方や解き方に工夫があり、時代の違いを超えて、私たちも大いに楽しむことができるのです」 と、西田さんはいいます。

「『塵劫記』を書いた吉田光由は、問題を解くために考えたり、計算したりする中で、パッとひらめくことを『算勘』(さんかん)といい、『算勘』の力を磨こうと読者に語りかけています。

子どもの受験勉強においても、私たちの毎日の暮らしにおいても『算数のひらめき』が大切なことに変わりはありません。

江戸時代の人々が積み重ね、現代に伝えた和算の知恵。江戸時代の子どもたちの学力に負けぬよう、和算の問題にチャレンジし、『算数のひらめき』を身につけながら算数脳を鍛えてください!」

盗人算の考え方

それでは、冒頭の盗人算の問題を『絵解き 和算ドリル』の解説にしたがって解いていきましょう。

1.図1のように、7反ずつ配ると8反余るので、8人分が余ります。

図1

2.図2のように、8反ずつ配ると7反足りないので、7人分の不足です。

図2

3.図2のように、今ある8人分に、7人分をたすことができれば、全員に1反ずつ多く配ることができます。これをもとに、どろぼうの人数を計算しましょう。
 式(ア               ) 答え(イ     人)

4.人数がわかれば、盗んだ反物の数も計算できます。7反ずつ配って8反余ることから、式に表して反数を計算しましょう。
 式(ウ                ) 答え(エ     反)

5.8反ずつ配って7反足りないことから、式に表して反数を計算しましょう。
 式(オ                ) 答え(カ     反)

〈答え〉
ア:8+7=15 イ:15(人) ウ:7×15=105 105+8=113 エ:113(反) オ:8×15=120 120-7=113 カ:113(反)

江戸時代に大ヒットした色板パズルが付録についた和算入門書

『図形・文章題に強くなる!
絵解き 和算ドリル』
著:西田知己 発行:小学館
定価:1320円(税込)
仕様:B5判・82ページ 本文2色
大好評発売中!
https://www.shogakukan.co.jp/books/09253674

江戸時代に大人気となった色板パズル2種類付き! 色板で楽しく遊びながら、図形の感覚を身につけられます。

付録の色板パズル「清少納言 知恵の板」は、1742(寛保2)年に出版され、大ヒットしたものです。

さらに、問題に関連したコラムやまめちしきを多数収録。
江戸時代の距離や重さ、お金の単位に、江戸の庶民の結婚適齢期、お寺や神社に奉納された「算額」など、問題の背景にある江戸時代の暮らしや文化にも触れることができるので、物語や歴史が好きな方は、より楽しくドリルに取り組むことができます。

■収録問題
1 裁ち合わせ(色板パズル1) 2 馬乗り算 3 旅人算 4 薬師算 5 方陣 6 年れい算 7 拾い物 8 盗人算 9 つるかめ算 10 俵杉算 11 入れ子算 12 油分け算 13 裁ち合わせ(色板パズル2) 14 時計算 15 町見術 16 容術

 

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