ネットを盛り上げた天海僧正のキャスティング

サプライズキャストの天海僧正(演・小栗旬)。(C)NHK

I:大坂の陣を終えた江戸城で天海僧正が登場しましたが、演じたのがなんと前年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で主人公北条義時を演じた小栗旬さんでした。

A:武士の世を築き上げた北条義時から武士の世を盤石のものとした徳川家康への主人公リレーについて、当欄では「2年にわたる壮大なる歴史叙事詩」と位置づけてきましたが、最終回ではふたりの主人公が顔を揃える形になりました。

I:ネットでは、天海=長谷川博己さん説も話題でした。

A:『麒麟がくる』で光秀役だった長谷川さんが天海で登場したら、『麒麟がくる』の世界観にも影響しますからね。面白いですけど。ここは松本潤さん、小栗旬さんの友情が導いた天海が最適だったと思いますよ。

I:いわれないと小栗旬さんとはわからないレベルの老メイク。「さすが江川悦子さん!」と膝を打ちました。しかも庫裏で天海が『源氏物語』と『吾妻鏡』を手にとるという粋な演出もありました。

A:このシーン、前年の『鎌倉殿の13人』の『吾妻鏡』、来年の『光る君へ』の『源氏物語』とリンクさせる演出と思いがちですが、実際に家康は『源氏物語』や『吾妻鏡』を愛読していました。『駿府記』などの史料には、慶長20年に日野輝資や冷泉為満などの公家らと『源氏物語』を楽しむ会を開いたこと、元和元年には『源氏物語』の「帚木(ははきぎ)」の巻を楽しんだことなどが記されています。『鎌倉殿の13人』の最終回では、松本潤さん演じる松平元康が『吾妻鏡』を読む姿で登場していましたから、松本潤さん絡みでは定番になっている「バトンタッチ」がうまい具合に活かされましたね。

I:欲をいえば『どうする家康』の中でも『吾妻鏡』から学んだというエピソードを出してくれたらと思いました。それにしても、家康は本当に本が好きだったんですね。

A:『源氏物語』『吾妻鏡』だけではなく『続日本紀』も読んでいたようですし、南北朝期の歴史物語『増鏡(ますかがみ)』を贈られて喜んだという記録もあります。好奇心旺盛だったのでしょう。家康の蔵書は、家康が亡くなった後に秀忠によって御三家に分与されたそうです。

I:庫裏の中で、家康の業績について証言を集め、取捨選択する場面でした。神格化するというのなら、必要な作業ですよね(笑)。

鯉のエピソード。伏線回収の段

懐かしの家臣団の面々。(C)NHK

I:1年間にわたる家康の物語の最後は、家康嫡男信康と信長息女五徳の婚姻の日の出来事が回想される形になりました。

A:鯉のエピソードを絡めた家臣団と家康のシーン。ちょっと目頭が熱くなりました。作者である古沢良太さんがこのラストシーンにどのような思いを込めたのかはわかりませんが、私は「本当の幸せってなんだろう?」という問いかけだと受け止めました。累代の家臣団が揃い、嫡男が祝言をあげる。合戦は続いて三河の国もまだ豊かではないけれども、家族や信頼する家臣団と笑い合って宴席をともにする。幸せじゃないですか?  視聴者の方はどのように受け止められたでしょうか。

I:鯉のエピソードの伏線が回収されたというのはともかく、この場面で家康家臣団が回想されました。夏目広次(演・甲本雅裕)、本多忠真(演・波岡一喜)など、今となっては懐かしい面々に再び出会えて、ちょっと嬉しかったですし、ジーンと鳥肌が立ちました。

A:1988年の大河ドラマ『武田信玄』の最終回。ナレーションの信玄の実母大井夫人(演・若尾文子)が「我が子、晴信がお世話になった方々を紹介します」と、主要な出演者を振り返る尺がとられていたのを思い出しました。当時はすでに大学生でしたが、いいシーンだなと思った記憶があります。今回せっかくなので、NHKオンデマンドで確認してみましたが、やっぱりいいシーンでした。1年間物語に寄り添い、完走した視聴者にとって、大河と伴走した一年を振り返る名場面だったと改めて思いました。

I:きっと10年後、20年後に見たら、涙ぼろぼろになるかもしれないシーンになりましたね。

A:なんだかんだいって、戦乱に明け暮れた日本を戦のない国にした功績は家康に拠るところが大きいです。その家康が人生の来し方を振り返った時に、家臣団が揃い、妻や嫡男がみんなで笑い合いながら宴席をともにした場面を思い出す。人生の最後に過去を振り返った時、どんな場面が出てくるか。人生絶頂の瞬間でしょうか、幸せを感じた瞬間でしょうか。そういうことを考えた時に、家康が最後に「築山殿も含めて家臣団の皆と笑い合う」シーンを思い出すというのは、ちょっと胸が熱くなりますね。

I:家康が、戦のない世を希求したというのは、事実だと思います。その思いをかみしめたいですね。さて、物語は、徳川四天王筆頭の酒井忠次(演・大森南朋)が実際に踊っていたというえびすくいで閉じられました。

A:今さらこんなことを言っても詮無いことですが、家臣団のえびすくい、紅白歌合戦で見たいですよね。もちろん「殿」にも出てもらいたいです。

I:実現するかどうかはともかく。主演の松本潤さんはじめ出演者の方々に感謝の意を表したいと思います。「いい作品をありがとうございました」って。

戦乱の世を終わらせ、平和な時代を実現させた家康(演・松本潤)。(C)NHK

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。

●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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