策略を巡らす家康(演・松本潤)。(C)NHK

ライターI(以下I): 前週に〈信長を殺す。天下をとる〉と家康(演・松本潤)が家臣団相手に心情を吐露しました。

編集者A(以下A):家康に対する饗応が安土城で行なわれ、饗応の場で信長(演・岡田准一)が明智光秀(演・酒向芳)に折檻を加えたというストーリーは,古典的なエピソード。本作では、その背景に家康の「策謀」が絡んでいたという展開になりました。

I:すでに、服部半蔵(演・山田孝之)を大鼠(演・松本まりか)ともども京に潜伏させ、茶屋四郎次郎(演・中村勘九郎)も同心しているというシナリオでした。

A:なんと用意周到なことかとびっくりしました。ただ印象的だったのが、石川数正(演・松重豊)ら家臣団が、信長を討ったら〈元の乱世に戻りますぞ〉と現実世界に引き戻そうとしていたところです。瀬名(演・有村架純)の「慈愛の国構想」も武田勝頼(演・眞栄田郷敦)の〈おなごのままごとのような策略には乗れぬ〉と現実世界に引き戻しましたからね。

I:劇中のように家康が信長を討ったと仮定しましょう。その後家康はどのように政の主導権を握ろうと構想したのでしょうか。小平太(演・杉野遥亮)の言う通り、元の乱世に戻るような気がしないでもないですが。

A:家康が本能寺へ攻め込んでいたらどうなっただろうかと「妄想」するのも楽しいですね。京都に半蔵や茶屋四郎次郎を手配するほど準備をしているなら、味方になってくれる武将の手はずも整えていたのだろうかとか、でも数正が言う通り「大義」がないから集まらないかもしれないとか……。

I:左衛門尉(演・大森南朋)が〈信長を討つ。この3年の間、ただその一事のみを支えに〉と語っていたように、瀬名と嫡男信康(演・細田佳央太)が亡くなってすでに3年経過しているわけです。味方になりそうな武田勝頼を滅ぼしてしまっていますからね。あるいは小田原の北条氏などに手回ししていたという設定なのでしょうか。

A:かたや光秀はどうでしょうか。三重大の藤田達生教授の『明智光秀伝  本能寺の変に至る派閥力学』によると光秀には、足利義昭を擁立し、室町幕府を再興するという考えがあったとされています。管領には娘婿にあたる細川忠興をあてがうという構想もあったようです。この段階で、家康にそれだけの構想があったのかどうか――。そういうことを考えながら見ているとなんだか楽しいのですが、劇中からは家康がそこまで計画を立てた感じはしませんでしたね(笑)。

安土城の宴

安土城に驚愕する家康家臣団。(C)NHK

A:さて、家康一行が安土城に赴き〈なんという城じゃ、これが安土城か〉と驚嘆していました。序盤で清須城が登場した際に、「今後、小牧山、岐阜、安土の城がどのように表現されるのか」と話しました。いったいどんな安土城が登場するのかと思っていましたが、わりとオーソドックスな安土城でした。

I:さて、その安土城訪問ですが、『信長公記』によると、この時に饗応を受けているのは家康だけではなく、武田勝頼から寝返った穴山梅雪(信君/演・田辺誠一)も一緒なんですよね。梅雪は信長にものすごい量の金を進物として用意していたようです。信長からしたら、家康よりも梅雪の方が「愛いやつ」と思ったかもしれませんね。

A:劇中では穴山梅雪の姿も見えましたが、饗応の席で、光秀が供した「淀の鯉」が臭うという家康の「策謀」が発端となって、信長が光秀に対して折檻をしてしまいます。饗応の席で腐った魚を供してしまったと記録しているのは『川角太閤記』。川角三郎右衛門という人物が関係者から聞いた話をまとめたもので、江戸初期に成立しています。書名から類推される通り豊臣秀吉が主人公の記録になります。

I:これまでの本能寺の変怨恨説では、安土城での家康饗応の際に腐った魚を供したエピソードから光秀の怒りが爆発寸前になるという見方がされることがあります。古典的なエピソードといえば古典的ですね。本作では、家康が敢えて「淀の鯉」 が腐っているかの如く振舞って、信長の怒りを惹起するという設定になっています。ところが、そうした家康の思惑を信長は半ばお見通しという体で物語は進んで行きました。〈俺を討て〉とでも言っているような雰囲気でもありました。

A:一方で、武田を滅ぼしたんだから、信長にとって、もう家康は御用済みという見方もありますからね。劇中信長と家康が濃厚なやり取りを繰り広げていましたが、狐と狸の化かし合いでも見ているようなスリリングな展開でした。

I:信長が〈腹のうちがわからない〉と言っていましたね。まさに化かし合いですね。

A: さて、そうした中で、家康の策謀から光秀が信長に折檻されるくだりになりました。格闘シーンに造詣の深い岡田准一さんだけに、短い尺ではありましたが、興味深いシーンになりました。

I:こういうシーンを見ると、「ああ、もう信長も見納めなのか」とちょっと寂しくなってきますね。

光秀(演・酒向芳)を折檻する信長(演・岡田准一)。(C)NHK

月代を剃って覚醒した家康に思うこと。次ページに続きます

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