そして、長篠の合戦。

決死の使者、鳥居強右衛門(演・岡崎体育)。(C)NHK

I:はい。続いて、鳥居強右衛門です。演じるのはミュージシャンの岡崎体育さん。扮装写真を見てもいい感じですよね。

A:鳥居強右衛門といえば織田・徳川軍と武田軍の間で繰り広げられた長篠の戦いで、長篠城から岡崎の家康のもとに援軍要請の使者に立った人物です。岡崎からの帰路に武田軍に捕らえられるのですが、命をかけて任務を全うした人物。そのエピソードがどのように演出されるのか、名作回になるのか駄作回になるのか、こちらも重要ですよね。

I:私は、ここでミュージシャンの岡崎さんをキャスティングした妙があると睨んでいます。三河出身の私は小学生の頃、さんざん鳥居強右衛門の話を聞かされて育ち、鳥居強右衛門の磔の様子の絵も描いたし、長篠の資料館にも何度も連れていかれたものですよ……。おとなになってからも長篠は取材で行っていて、地形もよく知っていますが、川の対岸から大音声で叫ぶシーンをミュージシャンが演じたら……。

A:なるほど。確かに川の対岸から本丸までは距離があります。鳥居強右衛門がどうやって籠城軍に家康の答えを伝えるのか……。そうか、それで岡崎さんをキャスティングしてるんだ。それはめちゃくちゃ楽しみですね。大河史上屈指の名場面になる可能性を秘めていますね。

家康の娘婿、奥平信昌(演・白洲迅)。(C)NHK

I:そして、鳥居強右衛門の主筋にあたる奥平信昌には大河ドラマ初出演の白洲迅さんがキャスティングされました。NHKの付けたキャッチが〈家康の娘亀姫が嫁ぐ奥平家当主〉というなんのひねりもないものでした(笑)。奥平家は家康サイドからみたら対武田の戦いの中での大功労者ですが、逆に武田側からすれば絶対に許せない裏切り者になりますよね。

A:東の真田家同様に大国に囲まれた小豪族の生き残り戦略ですからね。奥平家は、鳥居強右衛門の功や長篠合戦の大功労者ということで、家康と瀬名の間に生まれた亀と結婚することになります。その辺の機微を丁寧に描いてくれたらいいなと思ったりしています。

家康をめぐる女性たち3人のキャスティング

奥平信昌に嫁ぐ亀姫(演・當真あみ)。(C)NHK

I:というわけで、家康の娘亀は奥平信昌に嫁ぐことになります。奥平家を自陣営に引き込むために信長が勧めたという縁談です。その亀姫を演じるのが當真あみさん。16歳の新進気鋭の俳優です。NHK版『大奥』にも出演していますね。

A:家康の遺言で遺骸が葬られた久能山東照宮の拝殿にある灯籠は亀姫の奉納だといわれています。信昌と亀姫の間に生まれた子どもたちは「家康の孫」ということで、ほかの大名とは一段違う「格」を手に入れます。奥平宗家は宮津藩主を経て江戸中期に現在の大分県中津藩主に転封して明治維新を迎えます。

I:唐揚げで有名な中津ですね。奥平家は、生き残りに奔走した戦国時代の小豪族の成功事例ですよね。さて、今回は家康のふたりの側室の扮装写真も公開されました。まずは、お万の方です。松井玲奈さんが演じます。NHKがつけたキャッチが〈家康の心に入り込む神秘的な女〉。

A:神秘的な女性ですか。この人は瀬名の侍女を務めていた中で、家康に見初められた女性です。家康次男の於義丸(後の秀康)の母になります。家康が神秘的なキャラに惹かれてしまうということなのでしょう。

I:お万の出産が瀬名に認められなかったという悲劇があるのですよね。そのため秀康の人生も翻弄されます。結城家や秀吉の養子となったことで、嫡男扱いされませんでした。子孫は越前福井藩主になりますね。

A:はい。そして、家康の跡を継いだのが三男秀忠。嫡男信康、次男秀康を差し置いて、という形になりますが、本作ではその流れがどう描かれるのでしょうか。

I:はい。秀忠生母で家康側室の於愛の方を演じるのが、広瀬アリスさんです。

NHKのつけたキャッチが〈激動期の家康を支えた二代将軍秀忠の母〉です。

A:ちなみに40年前の『徳川家康』で於愛の方を演じたのが竹下景子さん。昭和時代にはよくあった「お嫁さんにしたいNo.1」に君臨していた人気俳優でした。

I:かなり重要な役どころですね。静岡県生まれの広瀬アリスさんにとって、御当地キャラを演じることになります。どう演じるのか楽しみですね。

A:家康に美貌を見初められたという女性ですが、家康好みということで明るくてざっくばらんな女性だったのでしょう。イメージ的には竹下景子さんより広瀬さんの方が合っている気がしています。「松潤家康」とのふたりの掛け合いがどう展開されるのか。演出陣の手腕がここでも問われますね。

I:そう言いながら、楽しみでしょうがないんですよね。

A:(笑)。

瀬名の侍女から家康側室となったお万の方(演・松井玲奈)。(C)NHK

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。

●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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