A:子役の時代から数々のドラマで活躍している志田さんが大河初出演とは意外でした。その志田さんが演じた糸の実家北条家と今川家は古い関係です。氏真からは曾祖父にあたる今川義忠の正室の北川殿は伊勢盛時(北条早雲)の妹ですし、当時の北条氏は小田原城を本拠に大領国を統治していたわけですし、劇中の時代は父氏康も健在。名門中の名門の姫君ということになります。
I:氏真と糸のラストシーンは、亡き義元が実は氏真をきちんと評価していて、信じて、成長を楽しみにしていたこと、その気持ちを桶狭間から戻ったら伝えるつもりであったことが糸の口から語られました。普段とても控え目な糸が、はじめてはっきりと自分の気持ちを氏真に伝えた場面でもありました。ちょっと感動しましたね。この場面について語った志田さんのコメントをどうぞ。
氏真の孤独や嫉妬も全て理解した上で、尊敬する父親に認められたいという思いも尊重しながら、氏真にしかない良さがあることをずっと信じていたと思います。第12回の ラストシーンは、糸が初めて氏真に想いを伝え、そっと肩に手を添え、氏真と共に生きていきたいと伝える大事なシーンだと思っていたので、丁寧に大切に演じました。
I:劇中でも、最後に〈妻ひとりを幸せにしてやることなら、できるやもしれぬ〉という氏真の台詞がありました。その言葉通りふたりはこれから40年以上一緒にいます。
A:〈氏真と共に生きていきたい〉――。いい話ですね。没落した婚家を見捨てることなく添い遂げる。実際にふたりの間には、この苦難を乗り越えた後に嫡男範以(のりもち)が誕生します。実は、この範以の系譜がすごいんですよ。今川義元の正室は武田信虎(信玄の父)の娘ですから、範以は、武田家、今川家、北条家の血を引いているということになるわけです。
I:特に名を成した人物ではないのですが、なんだかすごいですね。
A:そして、範以の娘が吉良家の嫡男義弥(よしみつ)に嫁ぎます。義弥の母は氏真の娘ですから、ふたりはいとこ同士になるのですが、義弥の孫が赤穂事件で知られる吉良上野介義央なんです。
I:なるほど。ということは、吉良上野介も武田、今川、北条の子孫になるのですね。
A:しかも吉良家というのは足利一門の名門中の名門。そうした多くの名門の血を引いているという意識が高慢な体質を生んだのかな、って今ちらっと思いました。
I:つまり、氏真が掛川で切腹していたら、赤穂事件は起きなかった! ということになりますね。
A:まあ、そうなるのかもしれません。
I:そういえば、赤穂事件を扱う大河ドラマも1999年の『元禄繚乱』以来、ご無沙汰ですね。
●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『日本はこうしてつくられた3 徳川家康 戦国争乱と王道政治』などを担当。『信長全史』を編集した際に、採算を無視して信長、秀吉、家康を中心に戦国関連の史跡をまとめて取材した。
●ライターI:三河生まれの文科系ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2023年2月号 徳川家康特集の取材・執筆も担当。好きな戦国史跡は「一乗谷朝倉氏遺跡」。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり