「掃除とは人生を整えること。まず、自分のために心地よく清めるのです」

最も苛烈な修行といわれる千日回峰行を満行した大阿闍梨が、掃除について書いた新刊が話題となっている。なぜ掃除は「より善く生きるための作法」になり得るのか聞いた。

・光永圓道(みつなが・えんどう)昭和50年、東京生まれ。戦後13人目の千日回峰行者。千日回峰行は1000年余続く荒行。比叡山の山上山下約4万kmを7年かけ巡拝し、9日間お堂に籠(こ)もり断食断水不眠不臥で不動明王を念じる堂入りをなす。満行し北嶺大行満大阿闍梨となった。
現在は大乗院住職、覚性律庵(※滋賀県大津市仰木4-36-20)住職。
撮影/打田浩一

●人生が整う掃除の極意3
1.道具は正しく使う
2.隅と端こそ丁寧に
3.トイレを磨くことは心を磨くこと

1.道具は正しく使う

「箒はしっかり立てて使います。体の正面でまっすぐに持ち、腰から上半身を動かして左右に掃く。正しい姿勢と美しい所作は、自分の体を痛めないためにも合理的なものなのです」

2.隅と端こそ丁寧に

「汚れは真ん中より隅にたまるものです。伝教大師(最澄)さまは“一隅を照らす”との言葉を仰いました。僧侶は一隅に目を向け、照らすことに努めねばならない。掃除も同じです」

3.トイレを磨くことは心を磨くこと

「仏門に入って最初に教わったのがトイレの掃除。“塵を払わん、垢を除かん”という教えの通り磨き上げます。まずは形から入れば心は後からついてきます」

私が仏門に入ったきっかけは、重度の小児喘息です。発作がひどく、中学2年生になるとほとんど学校にも行けない状態になってしまいました。「このままでは死んでしまうのではないか」と子どもながら命の危険に怯えていたとき、母の知人がお山( 比叡山延暦寺)を紹介してくれました。この時点ではまだ、私は篤い信仰心を持っていたわけではありません。それでも、普段暮らしていた東京の街と違い、お山は清澄な気配に包まれて自然と背筋が伸びる。息苦しさから解放されたような気がして、「ここでなら生きられるかもしれない」と思いました。

仏教の世界では、一に掃除、二に看経(かんきん)、三に学問といわれます。掃除をするのは、まず何よりも自分のためです。掃除をすれば、自分の今いる「環境」が整理整頓されます。快適な環境を嫌う人はどこにもいないでしょう。看経は、仏さまに対しての僧侶のお勤めです。皆さんなら会社の仕事や家事に勤しむ時間に当たります。乱雑な部屋や机での作業より、綺麗に整頓されていたほうが心地よいのは当然です。一、二と順序を踏み、初めて学問、即ち「向上心」と向き合う余裕が生まれます。焦らず、少しずつ、何事も肝心なのは順序です。そのためのすべての土台は「心地よい場所」から始まります。何はさておき、掃除だけがその場所を生み出せるのです。

日々を幸せに暮らすのが目的

「平常心是道。一所懸命に繰り返していると、それが普通になる。私たち僧侶の場合なら、毎日のお勤めでお経を上げるのは、肩肘張った儀式というより仏さまへのいつものご挨拶です」

私が好む言葉に「平常心是道」という禅語があります。仏教的な考えにおいて、善い行ないを自然に、普段通りにできていることをいいます。一所懸命に繰り返していると、だんだんそれが普通になってきます。毎日の掃除も同じです。やらなければならないと自分を追い込むのではなく、意識せずにやってしまう状態まで持っていく。毎日の掃除をしていれば、どうしてもできない日には掃除を休んでも家は綺麗に保たれます。たまには友人と出かけたり、居間でのんびり映画のDVDを観たい。そういう時間も大切です。日々を幸せに、ストレスなく暮らすためにこそ、ルーティンとしての「毎日の掃除」がある。掃除とは、人生を整えることでもあるのです。

人間は自分ひとりでは生きられない。千日回峰行でも、行者はまずは自分のために歩きます。その自利行を繰り返すうちに、次第に「どなたかのため」にも意義を持つ化他行(けたぎょう)へと拡がっていく。結局は掃除も同じこと。自分のためであると同時に、どなたかのためでもある。あなたが、あなたのためにする掃除は、やがて世界を清めていくかもしれません。

取材・文/矢島裕紀彦 撮影/黒石あみ(小学館写真室) 撮影協力/関口真允


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※この記事は『サライ』本誌2023年1月号より転載しました。

 

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