「実朝と義盛」の関係と「武衛と羽林」

I:この緊迫した状況の中で、いやむしろ緊迫した状況だからこそ、和田義盛と実朝の間の「武衛=ブエイ」「羽林=ウリン」のやり取りが、心にジーンとしみ込んできますね。このドラマの中の義盛って、昔からの義盛好きの私から見ても、惚れ惚れする愛すべきキャラクター。実朝も義盛に好意をもって接しているだけに、切ない思いに駆られます。

A:しかし、北条一族のやり取りや、実朝と義盛の場面を見ていてつくづく、作者のキャラクターへの「愛」の深さを感じますね。梶原、比企、畠山などこれまで粛清されたどの人たちにも作者の「愛」が注がれていましたし、権謀術数を駆使して有力御家人たちを追い落としている北条一族にしても、時政はどうにも憎めないキャラ設定。義時だって、「女性はきのこが好き」と思い込む描写を交えながら、自分のやっていることは、その是非はともかくとして「鎌倉のため」と一途な設定で、三番目の妻のえ(演・菊地凛子)からは陰で〈辛気臭い男〉と蔑まれる設定ですから。

I:確かに作者の大河への愛は深い。そして大河ドラマファンのもうひとつの楽しみが、劇中での描写と学界での最新知見を比較して「なるほど~」と楽しむこと。『史伝 北条義時』(山本みなみ著)でも〈畠山重忠の追討をめぐる父子の相剋〉〈平賀朝雅の政治的位置と時政専制の終焉〉など、学界の最新知見が、読みやすくてわかりやすくまとめられていたのがうれしいですよね。さて、劇中では御家人の粛清、北条一族の権力闘争とダークな展開が続いていきます。

A:旗頭の頼朝が亡くなった後に始まった権力闘争は、鎌倉時代およそ150年間通じて収まりませんでした。そして北条の世を変えようと後醍醐天皇が取り組んだ建武の新政もわずか数年で瓦解。その後も足利尊氏が設立した室町幕府が誕生するものの、落ち着いた政権運営はわずかな時ばかり。鎌倉幕府同様に守護大名の粛清が続き、6代将軍義教は暗殺されてしまいます。

I:結局、武士による政権は安定することなく、応仁の乱を経て、戦国時代に突入してしまいます。頼朝死後は、混乱続きで、ざっくりいうとそれが戦国時代まで続いてしまうんですね。

A:政権が安定し、平和が訪れたのは、信長、秀吉、家康の三英傑の「天下統一」の争いを経て、家康の江戸幕府の登場を待たねばなりません。頼朝挙兵から423年かかりました。ただ、江戸幕府設立の後も、大坂の陣、島原の乱がありましたから、安定した平和への道筋はほんとうに、ほんとうに長かったのですね。

仲良しの実朝(左/演・柿澤勇人)と和田義盛(右/演・横田栄司)。(C)NHK

『鎌倉殿の13人』から学ぶべきこと

I:『鎌倉殿の13人』から学ぶべきものは、〈権力を持ってはいけない人間に権力を与えてはいけない〉という極めて単純な定理ではないかと感じています。現代でも権力を持ってはいけない人間が権力を持つという事象があらゆるコミュニティで発生している印象がありますし。

A:先日、「うちの鎌倉殿が」って愚痴っている人がいました。詳しくは聞きませんでしたが、「天性のリーダーシップ」を持つという人はなかなかいませんから、大なり小なり同じような思いを抱く人は多いのでしょう。

I:ほんとうにそうですね。でも、『鎌倉殿の13人』を見ていると、このドラマを見ている小学生や中学生の少年少女の中から、数十年前の三谷少年のように「将来、大河の脚本を描きたい」「大河の演出をしたい」 という人が現れてほしいとつくづく思います。

A:ほんとうにそうですね。20年から30年後になるのですかね。そのときはどんな大河ドラマになっているのでしょう。

義母りく(左/演・宮沢りえ)と向き合う実衣(中央/演・宮澤エマ)と政子(右/演・小池栄子)。(C)NHK

●編集者A:月刊『サライ』元編集者(現・書籍編集)。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』、鎌倉歴史文化館学芸員の山本みなみ氏の『史伝 北条義時』などを担当。初めて通しで見た大河ドラマが『草燃える』(1979年)。先日、源頼朝のもう一人の弟で高知で討たれた源希義の墓所にお参りした。

●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。『サライ』2022年1月号 鎌倉特集も執筆。好きな鎌倉武士は和田義盛。猫が好き。

構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり

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