明治政府に消された小栗の業績
A:話題を変えましょう。小栗上野介(演・武田真治)が将軍家茂(演・磯村勇斗)に謁見する場面で登場しました。小栗の登場は感慨深いです。特に印象に残ったのは、城内を歩きながら懐から1本のネジを取り出したシーンです。
I:実は日本の近代発展の礎を築いたのは小栗上野介だといわれていますね。
A:小栗は万延元年の幕府遣米使節の随員としてアメリカにわたり、工業国アメリカの実力を目の当たりにします。そして、アメリカからネジを大切に持ち帰りました。帰国後の小栗は、横須賀製鉄所の建設に取り組むなど日本の発展に尽力します。
I:幕末には「築地ホテル館」を建設したんですよね? 日本で初めての近代的なホテルだったといいます。江戸に近代的ホテルがあったとは、と最初に聞いたときは驚きました。
A:実は小栗が持ち帰ったネジが、群馬県高崎市倉渕町の東善寺に伝来しています。新幹線の安中榛名駅から車で30分弱。小栗上野介の領地だった場所です。3年前に刊行した『消された「徳川近代」明治日本の欺瞞』(原田伊織著)の取材で訪れました。ご住職の村上泰賢さんは小栗研究者で、お寺の中にさまざまな資料が展示されていて、ネジも展示品のひとつでした。悲しいのは、自領で蟄居していた小栗を新政府軍はさしたる理由もなく斬首してしまいます。これもまた幕末維新の痛恨の悲劇のひとつです。
I:もし、小栗が生きていたら……なんて想像してしまいますよね。明治には大隈重信が「明治の近代化はほとんど小栗上野介の模倣にすぎない」とまでいっていますし、司馬遼太郎さんも小栗のことを「明治の父」と称賛しています。ドラマで一瞬登場した1本のネジが日本の近代化を象徴する貴重なネジだったということを知ってほしいですね。
A:天狗党や小栗の最期もそうですが、会津白虎隊の悲劇、函館にある碧血碑など、敗北せしものを顕彰する史跡が各地にあります。明治の発展はこうした敗者の存在が、新旧勢力の交代と時代の変革を強く印象付ける役割を担ったのだと思います。
I:敗者の悲話なくして歴史は語れないということですね。
А:渋沢栄一は、明治になって第一国立銀行頭取就任後に敦賀を訪れた際、天狗党の墓地に参ったそうです。どのような思いで天狗党の墓前の前に立ったのか――。そのシーン見てみたいですよね。
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●大河ドラマ『青天を衝け』は、毎週日曜日8時~、NHK総合ほかで放送中。詳細、見逃し配信の情報はこちら→ https://www.nhk.jp/p/seiten/
●編集者A:月刊『サライ』編集者。歴史作家・安部龍太郎氏の『半島をゆく』を担当。かつて数年担当した『逆説の日本史』の取材で全国各地の幕末史跡を取材。函館「碧血碑」が特別な思いを抱く。
●ライターI:ライター。月刊『サライ』等で執筆。幕末取材では、古高俊太郎を拷問したという旧前川邸の取材や、旧幕軍の最期の足跡を辿り、函館の五稜郭や江差の咸臨丸の取材も行なっている。猫が好き。
構成/『サライ』歴史班 一乗谷かおり