■過剰医療が起こる背景とジレンマ

(1)医療機関の営利目的:医療を行う医療機関も利益が上がらないと生活できません。営利目的が行き過ぎると、CTやMRI検査の乱用に代表される不要な検査が横行したり、診療報酬の高い医療行為をたくさん行い収入を増やそうとする医師が出てくることも必然です。

(2)患者さんのヘルスリテラシー不足:医師が提示する医療行為以上のことを患者さんが求める場合も多々あります。例えば、「午前中に風邪で他院を受診したけど、改善しない。抗生剤や解熱剤を出して欲しい」という理由で受診される方(ドクターショッピング)もいますし、「この薬とこの薬が欲しい」と指定してくる場合もあります。今の医療はサービス業的側面を無視できませんので、重大な副作用が懸念されない場合、希望通り薬を処方してしまう医師がほとんどです。

(3)防衛医療(defensive medicine):不必要な検査投薬の原因の一つに、医師の訴訟対策があります。例えば、頭痛の可能性として“クモ膜下出血”を見逃すと「見落とし」と判断され訴訟リスクを抱えることになるので、不必要とわかっていても頭痛患者全員に頭部CT検査を実施する医師もいます。

■「正しい医療」はない! 「自分にとって最善の医療」のために

先述の「検診をしても死亡率は変わらない」ということが示唆しているように、ただ闇雲に検診を受ける・病院を受診する行為は過剰医療の危険に身をさらすことになるかもしれないこと、そして、医学的に正しい医療行為があなたの健康を損なう恐れがあることを忘れてはいけません。また、検診を受けても、結果をどう役立てるのか、異常があるならそれをどれくらいで再検査するのか、医療機関に丸投げするのではなく、患者さん一人一人がヘルスリテラシーを持つ必要があります。ヘルスリテラシーを高めるためには、まず自分の知っている情報が「誰の立場から見た情報なのか?」考えることが重要です。そして、その情報を立体的に(複数の視点から)捉えるようにしましょう。例えば、「がん検診を受けましょう」というのは、あなたのリスクを見つけるものでもありますが、医療機関が追加の検査や治療に誘導するためのツールとも考えられます。また、「長生きしたかったら病院に行くな!」というのは過剰医療から身を守るためのメッセージでもありますが、これを鵜呑みにしすぎると、助かるはずの病気で命を落とす可能性もあります。万人に当てはまる「これが正しい!」という情報は絶対にありませんので、複数の視点から情報を捉え、自分で判断することが、「納得のいく医療」つまり「自分にとって最善の医療」を受ける秘訣になります。

以上、過剰医療を中心に本来あるべき医療との付き合い方を解説しました。「病院にかかっているから安心」「検診を受けているから安心」と考えるのは危険です。ヘルスリテラシーを高めることが「自分にとって最善の医療」を受ける秘訣です。まず、自分の知っている情報が「誰の立場から見た情報なのか?」考えることから始めましょう。

【参考文献】
1.N Engl J Med 2017: 376; 2208-9
2.OECD
3.Archives of Internal Medicine
4.BMJ 1997: 315; 1096-9

文/中村康宏
医師。虎の門中村康宏クリニック院長。アメリカ公衆衛生学修士。関西医科大学卒業後、虎の門病院で勤務。予防の必要性を痛感し、アメリカ・ニューヨークへ留学。予防サービスが充実したクリニック等での研修を通して予防医療の最前線を学ぶ。また、米大学院で予防医療の研究に従事。同公衆衛生修士課程修了。帰国後、日本初のアメリカ抗加齢学会施設認定を受けた「虎の門中村康宏クリニック」にて院長。一般内科診療から健康増進・アンチエイジング医療までの幅広い医療を、予防的観点から提供している。近著に「HEALTH LITERACY NYセレブたちがパフォーマンスを最大に上げるためにやっていること」(主婦の友社刊)がある。

HEALTH LITERACY NYセレブたちがパフォーマンスを最大に上げるためにやっていること

http://shufunotomo.hondana.jp/book/b454468.html

【クリニック情報】
虎の門中村康宏クリニック
ホームページ:http://tnyc.tokyo
住所:東京都港区虎ノ門3-22-14日本FLP虎ノ門ビル12階
Twitterで有益な最新健康情報をお届け:@ToranomonNYC

【お問い合わせ・ご予約】
電話:03-6823-1409
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