文/鈴木拓也

ここ最近、「今日は絶好調だ」と心の底から思えた日はあっただろうか?

いつもちょっとした不調を抱え、気になって医療機関で受診する。すると、医師には“異常なし”という所見とともに、「運動不足かもしれませんね。体を動かす習慣をつけてみてはどうですか」と、やんわり諭される。そこで、ラジオ体操やウォーキングなど始めてみるが、三日坊主に終わって、また不調に見舞われる……。

こんな無限ループに陥って悩んでいる方におすすめしたいのが、「かかと重心」で立つだけという、究極的に簡単な健康法だ。それだけで姿勢が整い、体が引き締まるといった効果があるという。

この健康法を唱えるのは、柔道整復師の長島康之さん。長島さんは著書『運動未満で体はととのう』(主婦の友社)で、この方法を取り上げている。今回はそのさわりの部分を紹介しよう。

人間本来の正しい姿勢とは

「かかと重心」という、初めて聞く言葉を体感するために、長島さんは、ちょっとした「実験」をすすめている。

まず、立ってスマホを片手に持つ。おそらく、首と頭が前に出てスマホを覗き込むような姿勢になっているだろう。では、スマホを顔の高さまで持ち上げ、少しずつ頭を後ろに動かしてみよう。長島さんの説明を借りると、以下のことが起こるはずだ。

体が後ろに倒れないよう、ぐっとかかとに力が入る瞬間があります。自然とおなかにも力が入ったはずです。おなかに力が入ってかたくなった状態が、体の安定性を高めることになります。これが「かかと重心」です。(本書より)

長島さんによれば、「頭は耳の位置がくるぶしの上、かかと寄りにくるのが正しい姿勢」とのこと。しかし、現代人の多くは、日頃の生活習慣のせいで、前傾気味になっている。そのため、背中が伸びてハリやこりにつながっていると解説。

今度は普通に立ってみよう。このときに、かかと、親指、小指の付け根が、地面にしっかり接地するように意識する。これが人間本来の正しい姿勢となる。

「足裏ほぐし」でかかとの感覚をつかむ

長島さんは、単にスマホを持っているときだけでなく、「歯磨きをしているとき、電車に乗っているとき、信号待ちのとき」など、事あるごとに「かかと重心」を意識するようをアドバイスする。また、座っているときにも「かかと重心」は有効。「上半身がすっと起きて、体幹に力が入ることで、肩や首に力が入らずラクに感じる」はずだ。

ただ、長年間違った歩き方していて、「かかとを意識」と言われても、その感覚をつかみにくい人が多いという。そういった人に、長島さんは「足裏ほぐし」をすすめる。本書には、いくつかの方法が載っているが、その1つがボールで足裏をほぐすというもの。

ところで、一度立って前屈をしてみよう。手が床にどれほど近づくか確認してから、以下の要領で足裏ほぐしを行ってほしい。

筋膜リリース用のボール、もしくはゴルフボールを使って足裏全体を10秒ほぐし、さらにかかとを10秒刺激する。(本書より)

この後で、もう一度前屈をしてみると、手がより床に近づいているはずだ。

日常的に実践する「かかと重心」

かかとの感覚が感じられるようになったところで、日常生活で「かかと重心」を実践するための、具体的なコツを紹介しよう。

例えば、階段を上がるとき。急いでいると、ついついつま先中心で駆け上がりたくなる。しかし、それだと上体がふらついて転倒リスクが高くなるという。ここはしっかりかかとをつけて踏み込む。踏み込んだとき、「ひざがつま先より前に出ないこと、上体が前傾にならないように注意」する。

次は、電車の中でつり革をつかんでいるとき。疲れているからと、つり革に体を預けるような体勢はNG。足を肩幅に開き、「かかと重心」になるだけで、ラクに立てる。また、つり革をつかんでいる間は、肩を上げないのがポイント。肩が上がると、首・肩こりを招くリスクがある。

このほか、布団から起き上がる、靴ひもを結ぶ、重い物を持ち上げるときなど、シーンに応じた「かかと重心」の意識の仕方が解説されている。少しずつ意識する機会と時間をのばして、日常生活に定着させるとよいだろう。

* * *

ここでは割愛したが、本書にはもう一つ、「おなか」(体幹)を強める呼吸が、「かかと重心」と同じくらい重要なメソッドとして取り上げられており、この2つのエクササイズでより効果的な改善が見込める。それ以外にも、短い時間で疲労感や不眠を改善させる「プチ習慣」など、様々なメソッドがある。いずれも、筋トレ・ジョギングのようなキツさとは無縁で、すぐ始められる。なんとなくの不調に悩んでいるなら、実践してみてはいかがだろう。

【今日の健康に良い1冊】
『運動未満で体はととのう』


長島康之著
主婦の友社

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文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)に掲載している。

 

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