コロナ禍の影響で我慢する生活が長引き、メンタル面の不調を訴える人が増えています。厚生労働省も「コロナうつ」の実態把握や対策に乗り出しましたが、自律神経の専門医で順天堂大学医学部の小林弘幸教授は、「いちばん危ないのは子どもたちのメンタル」と危惧しています。最新刊『本番に強い子になる自律神経の整え方』で、子どもたちの深刻な現状について訴える小林教授に、今、大人は子どもたちのために何をするべきなのか、聞きました。

文/小林弘幸 イラスト/大塚砂織

吸うよりも吐くことが大事「1:2の呼吸法」を活用する

緊張すると、胸がドキドキします。そして、自分のドキドキを感じると、さらに緊張が高まっていきます。「おさまれ、おさまれ」と念じてみても無理。自律神経は私たちの思うままには動きません。こういうとき、交感神経が高まりすぎていることによって呼吸は浅くなります。

そもそも私たちは、無意識のうちに呼吸をしており、その数は1日に2万回にも及ぶと言われています。単純に計算すると、1分間に14回くらいになります。

ところが、緊張状態にあると、呼吸が浅くなる分、回数は増えます。具体的には、1分間に20回を超える呼吸を行っているようなら、交感神経が高まりすぎていると考えていいでしょう。こういう浅い呼吸を続けていると、脳に取り込める酸素の量が不足し、さらに自律神経を乱すという悪循環に陥ります。緊張する→呼吸が浅くなる→余計に緊張するという状況に陥るわけです。

そこで、普段から深い呼吸を心がけ、習慣として身につけましょう。呼吸では、どうしても「吸う」ことを重視しがちですが、実は「吐く」ことが大事です。しっかり息を吐ききれば、その反動でたくさんの息が吸えます。まだ肺に息が残っている状態で吸おうとするから少ししか入ってこず、そのために浅い呼吸の回数を重ねることになるのです。そこで、吸うよりも2倍の時間をかけて吐く、「1:2の呼吸法」を行ってみましょう。

3〜4秒間かけて鼻から息を吸い、6〜8秒間かけて口から息を吐きます。このとき、一気に吐いてしまわないよう、口をすぼめるようにしてゆっくり吐くようにしてください。実際にやってみると、6秒は案外長く、「もう吐けない。早く吸いたい」という気持ちになるかもしれません。それでも頑張って吐ききってください。すると、次の3秒で吸える量がアップするのが感じられるはずです。

この呼吸を1日に1分でいいので行いましょう。毎日続けることで、深い呼吸が自然と身についていきます。

最初は、親が見本を見せてあげるといいでしょう。子どもが行うときは、親がそばで「吸って1・2・3、吐いて1・2・3・4・5・6」と秒針を見ながら数えてあげるのです。子どもができるようになったら、リズムを合わせて一緒にやってみましょう。単純に呼吸をするだけですが、親子のコミュニケーションにもなります。

毎朝、学校に行く前に1分間、この呼吸でメンタルを整えるのを日課にするといいでしょう。大事な試験があるときなども、いつものように行ってください。そして、「いつも通りやったから大丈夫だよ」と送り出してあげましょう。

呼吸は、吸うことより吐くことが大事。「1:2の呼吸法」は、鼻から息を吸う時間の2倍の時間をかけ、ゆっくりと口から吐ききる。イラスト/大塚砂織

3つのステップでストレッチ「胸郭」を鍛える

コロナ禍では、「肺」という臓器の重要性が広く知られることとなりました。これまで、肺について「空気を吸ったり吐いたりしている」という漠然とした認識しかなかった人でも、「肺炎が重症化すれば命を落とす」「若い人でもひどい肺炎を起こす」ということがわかったはずです。

私たちの臓器はすべて、循環する血液に乗って酸素が運ばれることで正常に機能しています。その血液を送り出しているのは心臓ですが、酸素を取り込んでいるのは肺です。肺の状態が良くて酸素摂取量が多いほど、脳を含めた各臓器は元気に働きます。逆に、脳に十分な酸素が供給されないと、自律神経は乱れ、集中力が減退したり、うつ状態に陥ったりします。

では、どうしたら肺の状態は良くなるのでしょうか。その前に、そもそも肺がどのような構造になっているのか、理解しておきましょう。

肺は、心臓の左右に1つずつ存在し、それぞれに気管支が伸びています。気管支は肺胞道と呼ばれるものに枝分かれしており、そこに小さな「肺胞」が塊となってくっついています。肺胞は毛細血管に囲まれて肺の中に詰まっており、その数は約3億個もあると言われます。この肺胞の一つひとつが、酸素を取り込む働きをしますが、肺胞自体は鍛えることができません。また、年齢を重ねると壊れていく一方で修復も不可能です。

しかし、肺胞そのものではなく、肺を取り巻く「胸郭(きょうかく)」を鍛えることは可能です。胸郭は、肋骨、胸骨、背中の胸椎に囲まれた骨格で、かごのように肺を覆っています。私たちが呼吸をするとき、胸が膨らんだり縮まったりしています。これは、肺そのものの力ではなく、胸郭にくっついている筋肉群が動くことで、肺もそれにくっついて膨らんだり縮んだりしているのです。だから、この胸郭を鍛えれば、自然と肺も強くなります。

具体的な方法として、最も基本のパターンを紹介しましょう。
1.足を肩幅に開いてまっすぐに立ち、両手を頭上に伸ばします。このとき、両手の手首を交差させるように固定します。
2.鼻から息を吸いながら腕を上に伸ばし、口からゆっくりと息を吐きながら上体を右側へ倒します。
3.鼻から息を吸いながら体をまっすぐに伸ばした状態に戻し、口から息を吐きながら、今度は上体を左側に倒します。

回数にはこだわらず、時間のあるときにやってみましょう。呼吸をしながら筋肉を伸ばすことで、ストレッチ効果もあってスッキリするはずです。

胸郭を鍛えれば、自然と肺も強くなる。上記のように呼吸をしながら筋肉を伸ばすことで、ストレッチ効果もあり、スッキリする。イラスト/大塚砂織

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小林弘幸(こばやし・ひろゆき)
順天堂大学医学部教授。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。1960年、埼玉県生まれ。87年、順天堂大学医学部卒業。92年、同大学大学院医学研究科修了。ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センター、アイルランド国立小児病院外科での勤務を経て、順天堂大学医学部小児外科講師・助教授などを歴任する。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートやアーティスト、文化人へのコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。順天堂大学に日本初の便秘外来を開設した「腸のスペシャリスト」としても知られ、腸内環境を整える味噌汁や自律神経を整える呼吸法やストレッチを考案するなど、健康な体と心をつくるためのさまざまな方法を提案している。

 

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