時代や地方が変われば、薬味の好みも様々に変わる。
北陸の福井県、越前地方では、蕎麦には大根おろし、削り節、刻み葱などが必需品となる。
ご存知、越前おろし蕎麦だ。
器に盛った蕎麦に、大根おろしや削り節、刻み葱などを乗せ、そこに汁をかけて味わう。薬味のてんこ盛りである。
季節によって大根を吟味し、蕎麦職人は薬味と蕎麦との味の調和に気をつかう。何種類かの大根おろしをブレンドして使うことも珍しくない。
これは蕎麦といえば「もり」あるいは「蒸籠」が定番の関東とは、ちょっと異なる、福井の蕎麦好きならではの楽しみ方である。
時代を遡って江戸時代の薬味を見ると、焼き味噌や梅干し、胡桃なども使われていた。
大根の辛さを出すために、山葵を叩いて潰してから、紙に包んで埋め火で蒸し、それを、大根のしっぽを切り落として、真ん中をくり抜いた中に押し込み、普通の大根のように擂り下ろして使ったという記録も見いだせる。
なんとも手をかけた薬味作りだが、江戸の人々は薬味の楽しさ、効用を、現代人とは比べ物にならないほど、熟知していたのかもしれない。
笏谷そば (しゃくたにそば)
住所:福井県福井市足羽4-5-10
電話番号:098-861-7383
営業時間:11時~20時
定休日:火曜日
文・写真/片山虎之介
世界初の蕎麦専門のWebマガジン『蕎麦Web』(http://sobaweb.com/)編集長。蕎麦好きのカメラマンであり、ライター。伝統食文化研究家。著書に『真打ち登場! 霧下蕎麦』『正統の蕎麦屋』『不老長寿の ダッタン蕎麦』(小学館)、『ダッタン蕎麦百科』(柴田書店)、『蕎麦屋の常識・非常識』(朝日新聞出版)などがある。