取材・文/坂口鈴香

写真はイメージです。

【1】(https://serai.jp/living/1267559)、【2】(https://serai.jp/living/1267561)では50代後半~60代の屋外での転倒事故を紹介した。高齢者とは言えない世代でも転倒事故は多く、治りも悪い。ましてや高齢の親世代となると、転倒は命取りになる。今回は、高齢の親世代の屋外での転倒事例を紹介したい。

電車に乗ろうとして転倒

丹羽礼子さん(仮名・60)の母親依子さん(仮名・87)は高齢ながら元気で、一人で電車に乗って都心に出かけることもできていた。

ある日、依子さんが電車に乗ろうとして、ホームと電車の隙間でつまずいたのか、転倒して車内に倒れ込んでしまったという。体が完全に電車内に入っていたため、ドアが閉まり、電車は倒れた依子さんを乗せたまま、次の駅まで止まることなく進行した。

「大丈夫ですか?」と声をかけた乗客もいたが、依子さんが返事をしたため見守るしかなかったようだ。快速電車だったので、次の駅まで10分ほどかかった。そして、次の駅で乗客から連絡を受けた駅員が依子さんを救助し、救急車で病院に搬送したという。

この経緯を依子さんから聞いた丹羽さんの怒りはおさまらない。

「母は足を骨折していました。今も入院中です。もうすぐリハビリがはじまるようですが、入院生活で環境が変わり、認知機能が落ちてきているのが心配です。あんなに元気だったのに、この事故で一気に要介護状態になってしまいました。電車に乗るときにつまずいて倒れ込んだのは、ホームにいた駅員も気づいていたでしょうに、なぜすぐに対応してくれなかったのか……。次の駅まで10分も放置されたことが納得いきません」

憤る丹羽さんだが、家族は「鉄道会社は責められない」という。家族に共感してもらえないことで「さらに悲しくなる」と嘆く。

電車内での転倒事故について運転士に聞いてみた

丹羽さんの母親が利用した鉄道会社とは別会社だが、同じ首都圏の鉄道会社で運転士を務めるSさんは、丹羽さんの母親に同情しつつも、「私の勤務する会社の場合、ホームに常に駅員がいるとはかぎりません。電車内で倒れていても、運転士や車掌にはどうしようもできないんです」と明かす。

依子さんがホーム側で倒れていれば、車掌が気づく可能性が高いが、依子さんが倒れたのは電車内だった。車内の様子を車掌は確認しないのか、と聞くと、「車内に防犯カメラはあっても、車内の様子がわかるモニターはありません」という。だから車内で倒れても、車掌や運転士が気づくのは難しい。となると、今回のような場合はどうしたらよかったのか。

「周りの乗客が車内の非常通報装置で知らせるしか、乗務員に連絡する方法はありませんが、それなら私たちがすぐに対処できるかというとそういうわけでもないのです」

非常通報装置が押されると、運転手は「安全な場所に止まる」ことになっている。ただ、2種類の「停止」があると説明する。

「『ただちに止まる』と『速やかに止まる』があるのです。踏切などで緊急性がある事態なら急ブレーキをかけて『ただちに』止まる必要がありますが、そうでなければ安全な場所で通常のブレーキをかけて『速やかに』止まります。安全な場所とは、基本的には駅です。駅と駅の間に止まっても何もできないことが多いのです」

依子さんの場合、もし乗客が非常通報装置を押して駅間で止まったとしても、安全に依子さんを病院に運ぶことはできない。電車の走っている区間の状況にもよるが、結局次の駅まで運行することになったのではないだろうか。

「私が乗客でも、非常通報装置を押すことはしなかったかもしれません」

丹羽さんが「何とかならなかったのか」と思う気持ちはよくわかる、としつつも、公平で客観的な意見をくださった。

ホームと車両床面との段差や隙間が縮小されている駅

依子さんのようなことにならないために、電車に乗る際は、なるべくホームとの段差や隙間がない場所を選びたい。駅によっては、「車いすスペース」のある乗降口で、ホームと車両床面との段差や隙間が他より少なくなっている。ホームドアやホームに車いす乗降口のマークがついているので、そこを利用すればつまずく危険が少しでも減るだろう。自宅の最寄り駅に、車いす乗降口などホームと車両の段差や隙間が少なくなっている箇所があるか、調べてみてほしい。

なお、以下の鉄道会社のサイトでは、ホームと車両の段差や隙間が縮小されている駅の情報が掲載されている。

・東京メトロ https://www.tokyometro.jp/safety/barrierfree/barrierfree7/index.html
・東京都交通局 https://www.kotsu.metro.tokyo.jp/initiatives/accessibility/barrierfree/subway/index.html#a
・JR東日本 https://www.jreast.co.jp/equipment/equipment_1/wheelchair/
・東急電鉄 https://www.tokyu.co.jp/railway/barrier-free/platform/
・小田急電鉄 https://www.odakyu.jp/safety/barrier_free/

取材・文/坂口鈴香
終の棲家や高齢の親と家族の関係などに関する記事を中心に執筆する“終活ライター”。訪問した施設は100か所以上。20年ほど前に親を呼び寄せ、母を見送った経験から、人生の終末期や家族の思いなどについて探求している。

 

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