斗々屋 京都本店は、丸太町通りより北の河原町通沿いにある。
西には京都御所、東には鴨川が流れている。

「ランチは何にしようかな?」とちょっと悩んだり、「今日の夜は何食べたい?」という会話はあっても、「明日の朝、何食べる?」という会話は、あまりしないものです。せいぜい「パンにする? ごはんにする?」くらいでしょう。そこには、朝食はささっと簡単に済ませたいという気持ちが、どこかにあるからかもしれません。

でも、それで本当に大切な朝のエネルギーが充填されるでしょうか? 体の芯から目が覚める朝食を、京都「斗々屋(ととや)」でいただきました。

「体を整える朝食がいいよね」、斗々屋が考えた朝ごはんのかたち

「季節のととのい御膳」
上から時計回りに、もずくの三杯酢、平飼い温泉卵、本日の汁物、東山西初のお豆腐と長芋とろろ、寝かせ玄米ごはん、季節の日替わりおかず2品(このときはきんぴらと山菜のナムル)、季節のフルーツ盛り、自家製のお漬物と梅漬け。
ドリンクはハーブティー、コーヒー、ほうじ茶の中から選べる。自由に使える自家製おかかつき。1,680円。
「もずくは朝食の中でも最初に食べると、水溶性食物繊維の働きで、一日の代謝をスムーズにしてくれます」とオーナーの梅田温子さん。

「斗々屋の朝ごはんは、スタッフと一緒に考えているメニューです」

オーナーの梅田温子さんは、そう話します。意外だったのは、朝ごはん営業が、梅田さんの発案ではなかったこと。朝営業が始まれば、スタッフは早朝から動かなければなりません。需要を感じてはいても、「じゃあ誰がやるの?」という現実がある。だから自分からは言い出せなかったそうです。

ところが、定期的に行う面談の中で「家も近いし、朝ごはんをやってみてもいいですか?」と手を挙げてくれたスタッフがいて、そのことをきっかけに翌月から斗々屋の朝ごはんは動き出しました(土曜、日曜、祝日の8:30〜10:00)。

朝ごはんを提案したのは、管理栄養士の資格を持つスタッフの方。
斗々屋の朝食は、2025年9月からスタートした。

「斗々屋では、毎日お惣菜を作って販売しています。そして、当店のテーマは『体に優しく、地球にも優しく、当然美味しいこと』。そう考えると、朝ごはんってすごく合うなと思ったんです」

自然栽培やオーガニックの旬の野菜、昔ながらの発酵食品、丁寧に選ばれた調味料。一つ一つの素材の力を生かして作られた斗々屋の朝食は、まだ完全には目覚めていない体に、エネルギーが充填できるように組み立てられています。

実際、「季節のととのい御膳」は、旅先の朝を強く意識して考えられていました。

「京都に観光で来たらやっぱり和食が食べたいですよね。『季節のととのい御膳』は旅行中、昼も夜もつい食べすぎてしまった人が、体を整えられるような御膳を意識して作っています」

一方でもうひとつの「斗々屋のまいにち朝めし」は、その名の通り、日々の暮らしの中で取り入れたい朝食として作られています。

上から時計回りに、自家製のお漬物と梅漬け、ほうじ茶、お味噌汁、季節の混ぜごはん、納豆麹、長芋ととろろとなめ茸のぶっかけ。自由に使える自家製おかかつき。880円。
「朝からアルコールも提供しているので『ちょっと一杯』も大歓迎です」と梅田さん。

「『斗々屋のまいにち朝めし』は880円とお手頃ですが、とろろやなめ茸がつき、ちゃんとボリュームがあります。斗々屋限定の納豆麹もつけました」

納豆は、オーガニックの大豆を斗々屋から藤原食品に納品し、その豆で作ってもらう限定品。藤原食品は5年連続「全国納豆協同組合連合会会長賞」を受賞する京都を代表する納豆製造会社です。

ごはんが選べるのも、朝の楽しさを増してくれる要素です。「季節のととのい御膳」は白米玄米ごはん(季節の混ぜごはん)、斗々屋雑穀ブレンド米、寝かせ玄米の3種類から、「斗々屋のまいにち朝めし」は白米玄米ごはん(季節の混ぜごはん)か斗々屋雑穀ブレンド米から選べます。

寝かせ玄米は、炊いたあと数日寝かせることで、玄米とは思えないほどもちもちとした食感になるそうです。

朝の気分や体の状態に合わせてごはんを選べるところにも、斗々屋の朝食が「整えるための朝食」としてよく考えられていることが表れていました。

季節の混ぜごはんは、常連さんも楽しみにしているものの一つ。
取材をした日は、筍ごはんだった。具沢山でうれしい。

「なぜ、この値段で出せるのか」-ゼロ・ウェイストが支える朝食

無農薬のお米や有機栽培の野菜を使った手作りの一膳にも関わらず、「季節のととのい御膳」は1,680円、「斗々屋のまいにち朝めし」は880円。正直、この内容でこの価格は安いと感じました。そこで率直に、「この値段で出せるのはなぜですか?」と尋ねてみると、梅田さんはさらりと答えました。

「食品ロスをほとんど出していないからです。それから、物流コストがほとんどかからない。店で仕入れたものをキッチンで加工して、そのまま提供しています。だから、10メートルの範囲の中で物流が完結しているんです。おまけにパッケージのコストもないですし、ごみも出ない。だから、思っているより安くできているんです」

とても明快な答えでした。

斗々屋は、食品スーパー。
店内に入ると、右手には惣菜が並び、左手には食材が並ぶ。
その奥には、調味料や乾物、菓子、コーヒー豆や茶葉、アルコール飲料まで揃えられている。
最奥部に、イートインスペースがある。

私たちはつい、無農薬やオーガニック、手作りと聞くと、「高いもの」と考えがちです。けれど斗々屋では、余計な包装を省き、仕入れたものをその場で加工してそのまま提供することで、価格を抑えることができています。つまり、安さの理由は何かを削っているからではなく、無駄なコストを最初から抱え込まない仕組みにあるのです。

斗々屋の野菜は20gから購入できる。
持ち帰るときはタッパーなどを持参すると便利だが、店に常備された新聞紙やデポジット容器を借りるのもいいだろう。容器を返せば、返金されるので、ごみが出ない。
塩や砂糖、醤油などの調味料も必要な分だけを購入できる。

梅田さんは市場調査でコンビニや一般のスーパーの商品と比べたときに、「斗々屋はなんでこんなに安いんだろう?」と思ったそうです。けれど考えてみれば、コンビニやスーパーの商品には、パッケージ代、広告費、物流費、さらにロス分のコストまで含まれています。けれど、斗々屋にはそれがない。その分、食材そのものにしっかりお金をかけられるのだといいます。

さらに梅田さんは、仕入れの基準についても興味深いことを話してくださいました。

「オーガニック農業をしていても、使い捨てのプラスチックを当然のように使っていたら、私はそこに矛盾を感じます。なぜかと言えば、オーガニックとゼロ・ウェイスト(ごみをゼロにすること)は別々のことではなく、本来はつながっているからです。

だから、仕入れをするときには、一緒に変わっていける人かどうか、作り手の方の人となりも大切にしています」

体にいいものを作ること、環境に負荷をかけないこと、おいしいものを食べること。それらは別々の話ではなく、本来ひとつながりのはずだという考えです。

斗々屋の朝食は、まさにその考えを、難しい言葉ではなく、一膳で表現しています。

だからこそ、この朝食をいただいた後に残るのは、「体に優しかった」「美味しかった」「力がみなぎった」だけではありません。滋味深い朝ごはんを食べながら、私たちは普段、どれだけ無駄な消費をしているのだろう、とふと考えさせられる。そんな気づきもまた、斗々屋の朝食が持つ力なのだと思いました。

「豊かさの価値観って、もしかしたら違うんじゃない?」-梅田温子さんという人

どんな人が、どのような人生を歩み、どんなことを考えながら、この一膳を作っているのか。背景を知るほどに、料理の味わいは深くなっていきます。斗々屋のオーナー・梅田温子さんは、食を通してこれからの生き方まで問いかけてくる人でした。

「顔出しはNGです」と話される梅田さん。
全身からパワーがみなぎっています。

もともと梅田さんは、子どもの頃から料理をするのが好きだったそうです。外食をしない家庭で育ち、祖父は畑で野菜を作り、お菓子まで手作りする人だったといいます。

「知らないうちに、とてもいい食育の環境の中にいました。でも、子どもの頃はスーパーのお菓子に憧れたりして、そんな生活が少し嫌でもあったんですけどね」と言って笑う梅田さん。

誕生日やクリスマスのプレゼントは「本」だけだったので、写真がたくさん載ったレシピ本を眺めるのが楽しみだったそうです。やがて、その本を参考に自分で作るのも自然な流れでした。

高校1年生の頃には、すでに料理の道へ進もうと決め、独学でフランス語を学習。やがて大阪の辻調理師専門学校に進み、19歳でリヨン郊外の村にあるフランス校へ。ブルゴーニュやリヨンの一つ星や二つ星のガストロノミーの調理場に立ち、その後はワインや食材を日本のシェフに紹介する会社を立ち上げました。そのまま20年近くを主にフランスで過ごしてきたといいます。

けれど、梅田さんの現在の考え方を形づくったのは、華やかなガストロノミーの現場だけではなかったようです。大きかったのは、生産者との出会いでした。特に印象に残っているのが、セヴェンヌ地方の山奥でハーブティーを作るドイツ人女性との出会いでした。

かつてはドイツの都市部でキャリアを積んでいたその女性は、フランスの山奥に移り住み、一人で子どもを育てながら、自らハーブの栽培をしていました。初めて梅田さんがその家を訪ねたのは、ご自身が臨月の頃。想像以上の山奥で、近くに食べに行けるような場所もない環境だったそうです。

「夕飯はどうしようか」と考えあぐねていると、初対面にも関わらず、夕食をご馳走してくれました。ふるまわれたのは、栗粉の自家製パンと畑で採れた野菜のポタージュ、そしてハーブティーというシンプルな夕食。けれど、その飾り気のない食事が、驚くほど深く心に沁みたといいます。

ハーブや花の畑に囲まれ、5歳の娘さんが無邪気に過ごす姿もまた、その場の豊かさを象徴していました。

質素なのに、満ちている。梅田さんが「あ、これが本当の豊かさなんだ」と実感したのは、まさにそんな瞬間だったといいます。

「日本にたくさん商品を売るとか、もっとパッケージを可愛くするとか、そういう方向にばかり向かうのは違うな、と強く感じたんです」

たくさん売ること、見た目を整えること、話題になること。そうした分かりやすい価値よりも、自分が納得できる方法で、きれいな商いをすること。本当の豊かさにつながる仕事をしたい。その思いが、いまの斗々屋につながっているのだといいます。

だからこそ、梅田さんの口からは、こんな言葉が自然に出てくるのでしょう。

「私は、『無駄なものにお金を払いすぎている社会』だと思っているんです。『お金がない』と言いながら、スーパーやコンビニで高くて、しかも健康によくないものを買っていたりする…。自分で自分の首を締めているんですよね」

ずいぶん強い言葉ですが、朝食をいただいたあとでは、不思議と説教には聞こえません。パッケージをなくし、物流もできるだけ削ぎ落とし、その分中身をきちんとよくする。そうした朝ごはんを実際に口にしたあとだからこそ、その言葉に実感が宿るのです。

もっと合理的に、もっと心地よく生きる方法はある… 梅田さんは、そのことを朝の食卓から伝えようとしているのだと思いました。

最後に

筆者も常々「ごみを出さないように」とか「消費期限が切れて、廃棄しないように」と思ってはいますが、なかなかできません。私がせいぜいやっていることといえば、ごみの分別をきちんとすることくらいのような気がします。コンビニやスーパーで買い物をすれば、どうしてもプラスチックごみが生じます。それは仕方のないことだと思ってきました。

しかし、斗々屋へ行くと、食べたいものを必要な分だけ購入できるから食品ロスはなくなるし、包装がないからごみを出すこともありません。意識せずとも、自然環境の保全にとっていいことが実践できるわけです。

取材の中で、梅田さんから衝撃的なコメントがありました。
「イラン情勢の影響から、石油製品の不足で世の中大騒ぎしていますけど、私はまったく影響を受けていません」

ゼロ・ウェイストの暮らしに興味や関心をお持ちの人は、斗々屋で「体の芯から目覚める朝食」を食べてみることをおすすめします。きっと、心豊かな生活への、何かしらのヒントが得られると思いますよ。

持参したタッパーで購入してきた、斗々屋の惣菜。
上から時計回りに、山菜の白和え、ナッツ入りさつまいもサラダ、ズッキーニとにんじんのマリネ、山菜のおひたし。
それぞれ約30g。ごみゼロのお惣菜。

■ 斗々屋

住所:京都市上京区河原町通丸太町上る出水町252番地 大澤事務所ビル1F
TEL:075-221-8282
営業時間:11:00~19:00、イートイン11:30〜18:00
※朝ごはんは、土曜・日曜・祝日の8:30〜10:00ラストオーダー
定休日:不定休、インスタグラムに最新スケジュールが掲載されています。
HP:https://totoya-zerowaste.com/
インスタグラム:https://www.instagram.com/totoya_kyoto/

※臨時休業もあるため、事前に電話確認・予約をしておくと安心です。

●取材・執筆/末原美裕

小学館の編集者を経て、編集プロダクション「京都メディアライン」を主宰。京都在住。日本文化や歴史、京料理、歳時記を主なテーマに執筆。『京都学問所紀要 鴨長明の世界』『京都学問所紀要 方丈記』(ともに賀茂御祖神社京都学問所)を編集。
note:@kyoto_monokaki Instagram:@kyoto_monokaki

●撮影/貝阿彌俊彦(京都メディアライン)

 

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