山口県の日本酒といえば、人気の「獺祭」(だっさい)をまっ先に思い出す方も多いでしょう。山口には個性豊かで美味しい銘柄がたくさんあります。また、萩市・阿武町の清酒は2021年に地理的表示「GI萩」に指定されており、山口の酒は地域性を語るうえでも注目されています。今回は、山口県を代表する日本酒銘柄をご紹介していきます。

「獺祭 純米大吟醸 磨き二割三分」(獺祭)
https://dassai.com

文/山内祐治

山口の日本酒はフルーティー? その理由と魅力

山口のお酒にフルーティーな印象を持つ方が増えた背景には、やはり「獺祭」の影響が大きいと思います。「獺祭」自体がリンゴや洋梨のような柔らかくフルーティーな香りを持ち、甘さも上品なお酒ですから、そのイメージが山口県全体に広がっているのでしょう。

さらに、「雁木」(がんぎ)や「東洋美人」「Ohmine」(おおみね)など、吟醸香が華やかで果実っぽいタイプのお酒が山口県には多く、最近はとくにレベルの高いものが増えてきています。日本酒を初めて飲む方にも、山口県のお酒はおすすめしやすい飲みやすさがあります。

山口の日本酒が有名になった理由。長州の地が育んだ酒文化

山口が「酒どころ」というイメージは、まだ広く知られていないかもしれません。しかしながら、山口は長州の地として昔からお酒が楽しまれてきたエリアです。近年、「獺祭」がニューヨークをはじめ海外市場でも存在感を高め、山口の日本酒に注目が集まる大きなきっかけとなりました。

続いて、「雁木」をはじめ多くの銘柄が注目を集めるようになってきています。日本海と瀬戸内海というふたつの海に面し、山間部にも豊かな自然が広がる山口県は、多彩なタイプのお酒が生まれる素地がある土地柄です。

山口の日本酒「獺祭」。世界に誇る純米大吟醸の旗手

獺祭」は岩国市周東町獺越の山合いに建つ大規模な蔵で造られています。山田錦のみを使い、純米大吟醸を中心に、データ管理を徹底しながら細やかな手仕事と近代的な酒造りを融合させた杜氏を置かないスタイルが特徴です。よくお米を磨くことで知られており、海外では“日本酒といえば「獺祭」”という声もあるほどです。

最近では、ニューヨーク州ハイドパークに蔵を設立し、現地の水で仕込んだ「DASSAI BLUE(獺祭ブルー)」も話題になっています。比較的入手しやすいのもうれしいところで、獺祭ストアなどで何種類か試すことができます。さらに2025年6月1日、旭酒造は社名を「株式会社 獺祭」に変更しました。ブランド名を社名に掲げ、海外展開をさらに強める動きとしても注目されます。

山口の日本酒「雁木」。旨味とキレが際立つ全量純米の実力蔵

雁木」も岩国のお酒で、山口を代表する銘柄のひとつです。「雁木」という名前は、岩国の錦川沿いにある船着き場の階段状の石組みに由来しています。全量純米、無(炭素)濾過にこだわり、無濾過生原酒を出発点として生酒や生原酒が充実しているのが特徴です。

また、「ひとつ火」と呼ばれる一回火入れの柔らかいお酒もあり、お米の旨味をしっかりと引き出しながらも、切れ味があって軽快な仕上がりになっています。どっしりとした旨味とキレのバランスが絶妙で、日本酒好きにも初心者にも楽しみやすい一本です。

山口の日本酒「東洋美人」。上品でフルーティー、萩が生んだ逸品

東洋美人」は萩市の澄川酒造場が手がけるお酒です。上品でフルーティー、そして繊細な味わいを持ちながら、山田錦を用いたラインでは、きれいな香りと柔らかな旨味を楽しむことができ、この酒米ならではの豊かなニュアンスも兼ね備えています。2013年の豪雨災害で大きな被害を受けましたが、見事な復活を遂げ、今も変わらない品質を保ち続けています。

ラベルも美しく、特に「地帆紅」(じぱんぐ)というラインはおすすめです。山口らしいお酒の一つとしてぜひ注目してみてください。

山口の日本酒「貴」。料理に寄り添う、宇部が誇る食中酒の傑作

」(たか)は宇部市の永山本家酒造が手掛けるお酒です。山田錦や雄町などを使いながら、酸と旨味のバランスが丁寧に設計されており、少し熟成させるとさらに美味しくなるタイプです。吟醸香を前面に出すのではなく、お料理に寄り添う食中酒として設計されており、香りは控えめながらもお米の旨味が余韻まで長く続くのが魅力です。

山田錦の自社栽培にも取り組んでおり、お米に真摯に向き合う蔵元の姿勢が伝わってきます。食事と一緒にじっくり楽しみたい、じわじわと好きになるお酒です。

山口の日本酒「天美」。下関から全国へ、爽快フレッシュな新星

天美」は、下関市菊川町で明治4年創業の児玉酒造の事業を引き継いだ長州酒造が、令和2年から新たに立ち上げたブランドです。デビューしてからあっという間に全国のファンから注目される銘柄になりました。柑橘っぽい爽やかなフレッシュさが際立っており、その個性的なスタイルで一気に注目を集めたのです。

その後、杜氏が変わるなどの変化もありましたが、今も美味しいお酒を造り続けています。フレッシュで飲みやすく、日本酒を飲み始めたばかりの方にも親しみやすい一本です。山口の新しい風を感じさせてくれる「天美」は、ぜひ一度試していただきたいお酒です。

山口の日本酒「Ohmine」。カルストの湧き水が育む、ジューシーな低アル原酒

Ohmine」は美祢市に蔵を構え、秋吉台のカルスト大地、弁天の湧水を仕込み水として使っています。スタイリッシュなボトルデザインも話題で、新時代の日本酒を体現するようなお蔵さんです。

お酒はジューシーなものが多く、アルコール度数を低めに設定しながら、お米の旨味をしっかり引き出す「低アル原酒」タイプが充実しています。そのジューシーさと旨味感が両立されており、おすすめしたいお酒の一つです。

「3粒 夏のおとずれ」(大嶺酒造)

まとめ

今回ご紹介した以外にも、山口県にはまだまだたくさんの美味しいお酒があります。「山猿」「五橋」「長陽福娘」も個性豊かで注目の銘柄です。日本海と瀬戸内海という二つの海に面し、山間部にも豊かな自然が広がる土地柄により、その多彩な環境が多様なタイプのお酒を生み出しているのでしょう。

ぜひさまざまな銘柄を試しながら、この土地の日本酒の奥深さを楽しんでみてください。

山内祐治(やまうち・ゆうじ)/「湯島天神下 すし初」四代目。講師、テイスター。第1回 日本ソムリエ協会SAKE DIPLOMAコンクール優勝。同協会機関誌『Sommelier』にて日本酒記事を執筆。ソムリエ、チーズの資格も持ち、大手ワインスクールにて、日本酒の授業を行なっている。また、新潟大学大学院にて日本酒学の修士論文を執筆。研究対象は日本酒ペアリング。一貫ごとに解説が入る講義のような店舗での体験が好評を博しており、味わいの背景から蔵元のストーリーまでを交えた丁寧なペアリングを継続している。多岐にわたる食材に対して重なりあう日本酒を提案し、「寿司店というより日本酒ペアリングの店」と評されることも。

構成/土田貴史

 

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