「日本遺産」の坑洞でつくられる幻の本格焼酎を訪ねて

濵田酒造の芋畑。同蔵では、自社栽培及び契約農家による芋をはじめ、鹿児島県産の芋のみを用いて焼酎を造っている。

九州全7県をぐるりと走破する「36ぷらす3」、指宿枕崎線を白と黒の車両がゆく「指宿のたまて箱」……。数々の名列車が発着する鹿児島中央駅は、南九州の鉄路の要衝である。

この鹿児島中央駅から、鹿児島本線に乗り一路西へ。車窓をよぎる山々の緑に目を奪われていると、40分足らずで海沿いに開けた町が見えてくる。

いちき串木野市。霊峰冠岳を背に東シナ海を望み、古くから鮪の遠洋漁業基地として栄えたこの町の北部には、日本有数の産出量を誇る金山がある。その坑洞を用いた焼酎蔵が、濵田酒造の「薩摩金山蔵」だ。

日本有数の金山跡を用いた「薩摩金山蔵」。串木野金山は令和元年に「薩摩の武士が生きた町」として日本遺産に認定されている。

金山蔵の奥には、坑洞の内部へ向かうトロッコ列車の発着場がある。乗り込むと、汽笛とともに列車は走りだす。350年にわたって掘り抜かれた安山岩の坑洞を700mほど進むと停車場に着く。16層からなる坑洞の上から2層目が、金山蔵の焼酎製造所にして熟成貯蔵庫である。

金山蔵で焼酎と清酒の製造の指揮を執る杜氏の東條健太さんに案内され、坑洞内の焼酎の製造所へ向かった。

杜氏の東條健太さんは、1981年、鹿児島生まれ。鹿児島大学卒業後、濵田酒造に入社。金山蔵では焼酎に加え清酒も造っている。焼酎は夏でもお湯割りで飲むのが好きだと語る。

坑洞内で熟成を待つ焼酎

幾重にも分かれる坑洞を、順路で歩く途中に、ふわりと心をくすぐるような芳香が漂ってきた。見ると、大きな甕が坑洞に沿って並べてある。その中には、金山蔵で造られた焼酎が満ち、熟成の時を待っているという。

坑内はひんやりとして、半袖だと肌寒いほどだ。

「地下は温度変化が少ないため、ここは年間を通じて約19℃に保たれています。また坑洞ならではの湿気も焼酎の保存には適しているのです」と東條さん。

土を焼成して作られた甕には、微細な穴が無数にあり、空気が出入りすることで焼酎の熟成は進む。適温でじっくり寝かせることで味に深みが加わり、多湿な環境が焼酎の過度な蒸発を防ぐのだ。

トロッコ列車に乗り仕込み蔵へ

焼酎仕込み蔵のある坑内にはトロッコ列車で入っていく。この車両は、造られた焼酎や物資の運搬などにも用いられている。
最前列は特等席。坑洞内には往時の什器なども残っている。岩壁には、ときおり白い筋状の模様が見え、それが金の鉱脈だという。
縦横に走る坑洞の随所に、巨大な和甕が置かれている。ひとつあたり約1000Lの焼酎が入っており、
熟成のため時を重ねる。

坑洞の中は歩きやすく整備されているが、往時に使用された什器や運搬用のトロッコなども残っているほか、黄金の観音菩薩像や、開運を祈願する薩摩開運神社など見どころも多い。

かつては坑洞を守るために純金の菩薩像があったが戦時に供出。このため、金箔を施した菩薩像を再建した。
坑洞内にある薩摩開運神社。島津家第17代当主島津義弘公を祭神として祀る。鳥居の前には巨大な金の鉱石が鎮座する。

総延長約120kmの坑洞を用いた蔵で造られる

坑洞の奥には、小規模なビルのワンフロアほどの建屋が設けてある。この中で、金山蔵の焼酎造りは行われている。

目を引くのが、木樽の上に鉄製の大きな皿を載せたような形のカブト釜式蒸留器だ。

「金山蔵は、継承をテーマに焼酎を造っています。焼酎文化の歴史と薩摩の文化を次世代に伝えていきたい。そんな考えから、この蔵ではどんぶり仕込みという江戸期の手法を用いて焼酎を造ります。カブト釜式蒸留器も、江戸時代に使われていた蒸留法なのです」と東條さんが話す。

カブト釜式蒸留器。タンクの醪を下から加熱。生じたアルコールの蒸気が水を張った鉄皿に当たると冷えて液体すなわち焼酎となる。

通常、焼酎の醪(もろみ)は、麹米、水、酵母を混ぜて発酵させ、そこに米やさつま芋、麦といった主原料を加えて、段階に分けて発酵させて造る。甕にそれらを一度に入れてまとめて発酵させるのがどんぶり仕込みである。

「発酵が一気に進むため、味が太く荒々しさのある酒質となります。いっぽうカブト釜式蒸留器を用いると、蒸気と液体が醪を通して何度も環流されるため、酒のカドが取れるのです」

坑内の仕込み甕でどんぶり仕込みを行なう東條さん。
自然変異の過程で発見された、金色を呈する麹は、東京大学の研究室で眠りについていた。それを同蔵が復刻し、黄金麹と名付けた。

また、同蔵では黄金麹(おうごんこうじ)と名付けた独自の麹を使う。黒麹から白麹に自然変異する過程で生まれた黄金色の麹を復刻させたという。用いると「ミントのような清涼感と南国果実のような香り」が焼酎に加わると東條さんはいう。

旧いふたつの手法の掛け合わせと黄金麹により、旨味とコクがあるのにまろやかという金山蔵独自の焼酎となる。

その味わいを存分に堪能できるのが同蔵の『福金山』。注ぐとグラスの中に金箔がきらめく。目にも楽しい美酒である。

黄金麹と白麹をブレンドして造られ、葛飾北斎の名作をラベルにあしらった『福金山 ~神奈川沖浪裏~』。華やかな飲み口に味の骨格も備える旨酒だ。25度。720ml (箱なし)3300円(税込)、300ml 1980円(税込)。金箔入り。

濵田酒造 薩摩金山蔵

鹿児島県いちき串木野市野下13665
電話:0996・21・2110
営業時間:10時~17時(売店)
定休日:平日(土曜・日曜・祝日のみ営業)
 ※トロッコ体験付きの蔵見学は1日2回実施。トロッコ出発時間(1)11時~(2)14時~。所要時間約75分。事前予約料金/試飲付きコース 20歳以上(お土産付き)2500円(税込)、試飲なしコース 20歳以上1000円(税込)、20歳未満500円(税込)。※当日予約は料金が異なります。
交通:JR串木野駅より車で約10分

木桶の蒸留器で仕込む

金山蔵と同じいちき串木野市の海近くには、濵田酒造の「伝兵衛蔵」がある。金山蔵が「継承」を掲げるのに対し、伝兵衛蔵は「伝統」をテーマとする。初代濵田屋伝兵衛が明治元年(1868)に、この地で開始した焼酎造り。創業から続く150余年の歴史を今に守っている。現代では珍しい木桶の蒸留器を用いて焼酎を造り、江戸時代に製作された和甕でじっくりと貯蔵する。仕込み甕が並び木桶蒸留器の佇む、風情ある木造の蔵も、事前予約をすれば見学ができる。

九州の鉄路周遊の際には、是非訪れて薩摩の焼酎文化を存分に味わってほしい。

150年の伝統を守る伝兵衛蔵を訪ねる

稀少な木桶蒸留器が現役稼働中。
和甕が並び、焼酎の良い香りに満ちる「伝兵衛蔵」の貯蔵庫。味に丸みを出すため、3年ほどは焼酎を寝かせているという。
右から『古式有機原酒 なゝこ』現存する日本最古の酵母と麹、有機米を用いた限定酒。37度720ml、1万3750円(税込)。中は伝統製法と黄麹を用いた『伝(でん)』。25度720ml、2013円(税込)。左は『薩州 赤兎馬 抹茶使用』。さつま芋の他、抹茶と緑茶を原料に使い、白麹で造った。25度720ml、2120円(税込)。

濵田酒造 伝兵衛蔵

鹿児島県いちき串木野市湊町4丁目1
電話:0996・21・5260
営業時間:9時~17時(売店)
定休日:水曜 ※蔵見学は1日2回実施(事前予約制)。(1)11時~(2)14時~。所要時間約40分。料金/大人(20歳以上/試飲・お土産付き)700円(税込)、20歳未満無料
交通:JR市来駅より車で約5分

撮影/松隈直樹

問い合わせ先/濵田酒造 電話:0996・21・5260(平日9時~17時)

 

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