取材・文/池田充枝
室町時代から江戸時代の画壇において400年もの長きにわたって中心的な役割を担ってきた画家集団・狩野派は、ある種のスタンダードとして安定した価値を保ち続けました。
狩野派の絵師たちが重視したのは、過去の絵画を模倣して技術を習得するという実践的な訓練でした。その結果、あらゆる古画が狩野派の当主のもとに持ち込まれ、真贋の判断や筆者の比定が重ねられました。
みずからの眼に触れたおびただしい古画を、技法の習得に活かし、後世に伝えること、それが狩野派の血脈を継いでいくシステムでした。
狩野派の活躍を支えた鑑定と模写による眼と手を、実作で実感できる展覧会が開かれています。(3月1日まで)
本展の見どころを、出光美術館の主任学芸員、廣海伸彦さんにうかがいました。
「江戸時代を通じて画壇の中心に君臨した絵師集団・狩野派は、力強く、また端正な絵画によって、その時々の有力者たちの要求に応え続けました。
その堅実な仕事を支え、流派の血脈を着実に継いでいくために重視されたのは、過去の絵画情報を蓄積することです。中国と日本で描かれた絵画に触れた彼らは、その図柄を模写することでその画家の表現を学び、みずからの制作に活かし、後進の育成に役立てました。その結果、狩野派に属する絵師たちは、近い水準で高い質の絵画を描くことができるようになるわけです。
こうした狩野派の態度は、芸術家の感性の発露を作品に期待しがちな現代の価値観の対極に位置しています。狩野派の絵画は剽窃や模倣にすぎない、と軽視する風潮さえあるかもしれません。ただ、往時の表現をつぶさにとらえ、鍛え抜かれた画法でそれを写した狩野派の仕事は、そうした軽薄な批判を簡単に退けるでしょう。カメラもコピーもない時代に、原本と見まがうほどに精巧な絵画をつくり出す狩野派の技法は、まるで魔法のようです。
この展覧会では、狩野派が手がけた絵画とともに、実際に彼らが触れた絵画をご覧いただきます。さらに、当代一の目利きとして狩野派の絵師たちが発給した鑑定書を、その作品とともに展示するという珍しい試みもしています。さまざまな主題と時代の絵画に接した経験が流派の権威を裏づけ、その豊かな活動を支えたことを感じていただければ幸いです」
鍛え抜かれた画法と精緻な表現!!狩野派400年の眼と手を会場でご堪能ください。
【開催要項】
狩野派―画壇を制した眼と手
会期:2020年2月11日(火・祝)~3月1日(日)
会場:出光美術館
住所:東京都千代田区丸の内3-1-1 帝劇ビル9階
電話番号:03・5777・8600(ハローダイヤル)
http://idemitsu-museum.or.jp/
開館時間:10時から17時まで、金曜日は19時まで(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(ただし2月24日は開館)
取材・文/池田充枝