今よりも待遇が良い仕事や、やりがいのある仕事をしたいと、キャリアアップを考える場合、どのように行動すれば理想に近づいていけるのでしょうか? やみくもな行動は後悔に繋がりかねません。そこで、プロティアンキャリア協会代表理事の有山徹さんの著書『新しいキャリアの見つけ方』から、人それぞれの特性や仕事に対する価値観を再発見する方法をご紹介します。

文/有山徹

未来志向のプロティアン・キャリアとは

「プロティアン・キャリア」とは、アメリカのボストン大学経営大学院で組織行動学や心理学を教えているダグラス・ホール教授が1976年に提唱した概念です。「プロティアン」とは、ギリシャ神話に登場する「プロテウス」という神に由来しています。プロテウスは海神ポセイドンの従者で、さまざまなものに姿を変えることができる能力を持っています。環境によって変幻自在に姿形を変える神にちなんで、周囲の状況に合わせて柔軟に変化できるキャリア理論としたのです。

プロティアン・キャリアと従来型のキャリアを比較したものが図Bです。

プロティアン・キャリアのポイントは以下の3点です。
「未来志向」
「変幻自在」
「心理的成功」

「未来志向」は、これまで述べてきたように過去の経歴ではなく、これから人生を送っていくプロセスに目を向けていくということです。変えられないはずの“過去の”キャリアも、未来に向けて意味付けを変えていくことができます。

たとえば、あなたの経歴のなかに、半年ほどで辞めてしまった会社がいくつかあったとします。これを履歴書に書くとなると、こらえ性のない人物のように思われるかもしれません。しかし、見方を変えれば、自分に合った会社を見つけるために必要なプロセスであったともいえます。

半年で辞めてしまったという事実だけを見れば就職活動の失敗となりますが、「自分に合う会社を探す努力を放棄しなかった」と意味付けを変えることで、安易に妥協せずに未来に向けて価値のあることだったと捉え直すことができます。自分では「黒歴史」だと思ったことでさえ、意味付けを変えればプラスに変えてしまえるのです。
 
「変幻自在」とは、キャリアは一本道でなくていいということです。変化の速い時代に適応するには、キャリアは柔軟に変えていく必要があります。そして、キャリアはいつでも、どんな形からでも新たに作っていけるものだということです。間違ったり、迷ったりしたことも、すべて肯定して未来につなげていくことがプロティアン的キャリアになります。
 
「心理的成功」は、自分が幸福だと思う状態を明確にし、それを目指すプロセスのなかにも幸せを見出して、幸福感を感じながら生きるということです。組織に依存して働くこれまでのキャリアでは、その組織の利益を追求することがミッション(使命)でした。しかし、自分の手に取り戻したキャリアでは、自分のやりたいことと組織のミッションを重ね合わせつつ、幸福感を感じながら「心理的成功」を目指します。そのなかで、キャリア機会を与えてくれた組織へ貢献することで、お互いにパートナーとしてWin-Winの関係構築を目指します。

プロティアン・キャリアは「アイデンティティ」×「アダプタビリティ」の掛け算

プロティアンでは、未来に向けたキャリア戦略を可視化して、行動を起こしていきます。そこで大事になるのが、「アイデンティティ(自分らしさ)」と「アダプタビリティ(適応性)」です。

アイデンティティというのは、自分自身を知ること。自分をしっかりと正しく理解することで、自分が持っている“資本”を確認し、自分でも気付かなかった特性や長所を見つけます。

そしてアダプタビリティとは、社会(市場)に対してどのように対応していくかということです。「自分には大したスキルも経験もないし……」と悲観することはありません。それはあくまであなた自身の評価であって、あなたの持つスキルを必要とする場所があるかもしれません。また、いま求められているスキルやノウハウがわかれば、それを身に付けて活かしていく戦略を立てることもできます。

古代中国最高の戦略書である孫子の兵法でも、自分と敵をよく知れば、100回戦っても負けることはないと説いています。いままでのキャリア論では自分探しだけに焦点が当てられてきましたが、変化の時代のキャリア戦略は、主観だけに留まらず客観的に自分を見ることがとても重要になっています。そのために、フレームワークなども使いながら未来を可視化し、自分のことを言語化して戦略を考えていきます。その戦略をもとに、未来に向けた行動を実践していきます。

私たちはコロナ禍という非常事態を経験したことで、自分自身のキャリアを見つめ直す機会を得ました。自分はこれからどう生きたらいいのか、自分とは何者なのか、将来に向けたキャリアを考えていきましょう。

* * *

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有山徹(ありやま・とおる)
一般社団法人プロティアン・キャリア協会代表理事。4designs株式会社代表取締役CEO/founder、国家資格キャリアコンサルタント。早稲田大学MBA。国家資格中小企業診断士。就職氷河期である2000年に早稲田大学卒業、大手食品メーカーに就職するも、より経営に近い成長できる環境を求めて3ヶ月で退職しフリーターに。24歳で中小企業診断士に合格し経営コンサルティング会社に転職、その後、東証一部上場のIT企業、DX企業や医療系ベンチャー企業など事業会社5社で経営企画部長や管理本部長などを経験。MBO後の組織改革や、未上場からの東証一部直接上場(IPO)案件、グループERP導入案件などのプロジェクトリーダーを務めるなど全社プロジェクトマネジメントを得意とする。2019年、経営・キャリア支援を行う4designs株式会社を起業、独立。2020年3月、法政大学キャリアデザイン学部田中研之輔教授と一般社団法人プロティアン・キャリア協会を設立。現在は、大手総合商社、大手電機メーカー、大手石油・化粧品メーカー等へのキャリア開発視点での組織開発支援やキャリア開発の実践支援を行うプロティアン・キャリア戦略塾など、研修や面談を通じて多くの個人に100年・VUCA時代の最先端キャリア開発である現代版プロティアン・キャリアを伝えている。

 

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