文 /池田輝男

人の考えは十人十色。そんなことはわかっていても、こんな社員を育成するときに困ったことはありませんか?
いい線いっているけど、どうしても爪が甘い。
元々大雑把な性格をしていてやることなすことが雑。
しかも、そのことについて伝えるとなんだか釈然としない顔をされる。

このような社員に共通しているのは、主語が「相手」ではなく、「自分」私たちは、このような社員を「オレオレ怪獣」と呼んでいます。

しかし、この「オレオレ怪獣」が自ら丁寧仕事人に変わっていくコミュニケーションがあったらどうでしょうか。その3つの極意をお伝えします。

本章の冒頭で「不器用な人でも丁寧仕事人になれる」とお伝えしました。(https://serai.jp/business/1043475
 
手先が不器用な人は思考も不器用です。その一端として「主語が『自分』」ということが挙げられます。これを私の会社では「オレオレ怪獣」と呼んでいます。

何事も「俺が俺が」で人の話を聞こうとしない。「俺がルール」という考え方ですから、そういう人の仕事は自分主体なので雑になりますし、お客様にとっては雑な人に映り、社内ではパワハラな人になってしまいます。
 
ですが、こういうオレオレ怪獣な人でも、教育によって丁寧仕事人になることは可能です。コミュニケーションの手段を自分から他人に移し、主語を「相手」で考えられるよう教育していくのです。
 
教育をする時のポイントは次の3つです。

1.バックトラッキング……オウム返し
2.ペーシング……相手とペースを合わせる
3.ミラーリング……相手のしぐさなどを真似する
 
それぞれ解説していきましょう。

1.バックトラッキング

丁寧な仕事をするためには相手への思いやりが大事で、そのためには相手の話をよく聞くことだと、先にお伝えしました。
 
これができない人は基本的に雑な人で、たとえば報告でも「相手が何を知りたいか」を明確にできずに報告をしてしまうので、報告された側はさらに質問を重ねたり、報告のし直しをしてもらったりと、ロスが発生してしまいます。
 
商談などで取引先に対しても、相手が求めている適切な回答をできずに取引先にストレスを感じさせてしまったり、最悪の場合は取引停止や契約を結べないなどの「失注」につながってしまいます。
 
そうならないためにも相手の話を聞くことが大事なのですが、その時に単に聞くだけではなく、相手が言ったことに「こういうことですね?」と聞き返すことが重要です。
 
この時にポイントとなるのが、自分の勝手な解釈を入れず、相手が言ったことをオウム返しする技術です。これをNLPの言い方で「バックトラッキング」といいます。
 
NLPとは「Neuro Linguistic Programing(神経言語プログラミング)」の略称で、「脳と心の取扱説明書」とも呼ばれる最新の心理学です。数学者リチャード・バンドラーと言語学の助教授ジョン・グリンダーによって開発されました。
 
私はピアノ運送会社の経営者でもありますが、同時にNLPのマスタープラクティショナー(上級実践者)の資格を持っています。
 
人間は誰しも、自分なりの考え方や固定観念が存在します。ですから、相手が話したことを自然と自分の中で勝手に解釈し、理解したような気になってしまうのです。
 
ですが、丁寧な仕事をするためには、最初は相手の言うことをそのまま受け止め、確認することが大事です。そして、相手からの「そうです」を引き出すのです。

2.ペーシング

バックトラッキングをするためには相手と向き合って話を聞くコミュニケーション術が必要になります。その二つのうちの一つ目が「ペーシング」です。これもNLPの世界では当たり前のコミュニケーション術です。
 
ペーシングとは、相手の「話し方」「状態」「呼吸」などのペースに合わせることです。
 
話し方にペーシングする時は、相手の声の調子や話すスピード、声の大小、音程の高低、リズムなどを合わせていきます。早口であれば自分も少し早口に、ゆっくり控えめであれば、自分もそれに倣ったトーンと声量で話します。
 
相手の状態にペーシングする時は、明るさや静けさ、暗さ、感情の起伏などに合わせていきます。相手が興奮して話をしているなら、自分もその感情に乗って興奮したリアクションをすることで、相手に同調することができます。
 
呼吸にペーシングする時は、相手の肩や胸や腹部の動きを観察しながら、同じ呼吸のリズムになるよう合わせていきます。前の二つが「聞くこと」だったのに対し、これは相手を「見ること=観察すること」がポイントです。
 
このように相手とペーシングを行っていくと、自分と相手の間に一体感が生まれ、話す側は安心して話をすることができるようになります。そして、聞く側である自分も、より興味を持って相手の話を聞く姿勢になります。
 
結果、相手との信頼関係を築くことができるようになるのです。

3.ミラーリング

ペーシングと同時に意識してもらいたいのが、「ミラーリング」です。これも、NLPの世界では当たり前です。
 
ミラーリングとは、文字どおり「ミラー=鏡合わせ」のように相手の身振りや動作を真似ることです。合わせていくのは、相手の姿勢や座り方、見振り・手振り、表情などです。

相手が前のめりで話をしていたら、こちらも前のめりで話を聞く。それによって、相手と同じテンションで話を聞いていることを表現することができます。
 
相手が悲しそうな表情をした際は、こちらも悲しそうな表情で返す。相手は自分の話に共感してくれていると感じてくれます。
 
ミラーリングとは、聞き手が話し手を理解する手段にもなるのです。慣れてくるとペーシングと同時にできるようになりますし、コミュニケーションの達人たちは、この二つを自然と同時にやっています。
 
ただ、ミラーリングでは注意してもらいたいことがあります。
 
それは、「相手に少し遅れて真似をする」ということです。
 
想像してもらいたいのですが、相手がグラスに手を伸ばしたらすぐに自分もグラスを手にする、前のめりになったらすぐに前のめりになる……これって、される側からしたらちょっと気持ち悪くありませんか?
 
相手を気味悪がらせたり、不信感を抱かせてしまう可能性があるのです。
 
少しタイミングをずらしてミラーリングをしても、十分に効果を得られますので、自然にできるようにしていきましょう。

これらの三つを取り入れ相手の話を聞くことで、コミュニケーションが円滑になり、お互いに「好き合った状態」で話をすることができます。
 
もちろん、ビジネスの場合はいつまでも相手の話を聞いていられるわけではないので、商談やお客様との会話時間にはある程度の区切りは必要です。
 
それでも、相手の抱えている問題や課題をヒアリングできるようになると、その分だけよりよいサービスを提供・提案できるようになるので、真の問題解決に近づくことができます。
 
また、私の会社の例ですが、先述の“オレオレ怪獣な社員たち”がこのコミュニケーション術を身につけた結果、離職が少なくなる効果も出ています。


池田輝男
池田ピアノ運送株式会社代表取締役。1970年、千葉県野田市生まれ。42歳で池田ピアノ運送株式会社の代表取締役に就任。 グループ4社220名のスタッフと12営業所を束ね、ピアノ・大型家電、ピアノ・大型家電・フィットネス器具、OA機器・通信設備機器・音響製品・印刷機器など大型精密機器の全国配送設置工事および大型モニターを使用したオンライン環境提供サービス、企業研修コンサルティングなどを手がけ、書籍「丁寧」なのに仕事が速い人のヒミツも発刊し、増刷決定。「丁寧さと迅速さ」を信条に、同社をピアノ運送業において業界ナンバー1の企業に成長させた。人生のミッションは「日本一、お客さんからありがとうを集めること」

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