文 /池田輝男
経営者、役職者にとって、自立した社員を育てる。これは、どの会社にとっても大切な育成のテーマとなるのではないでしょうか。そこで弊社でも、当然入社条件でもある「自立した社員を育てるため」新入社員に実施させている1つのススメをお伝えさせていただきます。
「3人の石工」(https://serai.jp/business/1043505)とは別に、私の会社で入社条件にしている「自立した社員」を育てるための考え方をお伝えします。少し特殊かもしれませんので、取り入れられる場合にだけ取り入れてください。
自立して、一人で生き抜く力を身につける
それは、「必ず一人暮らしをさせること」です。
私の会社では、採用した社員には必ず一人暮らしをさせます。すでに結婚をして家庭を持っている場合は別ですが、親元にいる場合は、たとえ職場と実家が近かったとしても、一人暮らしをしてもらっています。
理由はシンプルで、自立し、一人で生き抜く力を身につけるためです。
「親元にいても、ちゃんとお金を入れていればいいじゃないか」
そう思うかもしれません。
ですが、「自立=自分で食えること」です。衣食住が基本的にすべて賄われ、給料の一部を入れたらあとはおこづかいになる環境では人間は自立できない、と私は考えます。
仕事をする上で、この自立心を養っておくことは非常に重要です。
まず、親のありがたみがわかります。
自分で調理器具や食器を揃えるところから始まって、毎日の買い物、調理、片づけ、栄養管理まですべて自分で考えなければいけません。食事以外にも家の契約、掃除、洗濯、ゴミ出し、戸締りの管理、家賃や光熱費の支払いなど、何もかもを自分でスケジューリングし、行動しなければいけません。親元にいると、これらのことはほぼすべて親任せになってしまい、経験ができません。
逃げ道がないと本気で取り組むようになる
次に、仕事への逃げ道がなくなります。
職を失う=収入を失うことなので、すぐにではないかもしれませんが、いずれは生活が立ち行かなくなります。親元にいればゆっくり次を探せますが、一人暮らしではそんな余裕はないでしょう。
要するに、仕事への逃げ道がなくなることで、仕事に対して本気で取り組むように変わるのです。本気になったら、お客様に喜んでもらうしかありません。丁寧に仕事をしてお客様からの評価を上げるしかありません。それが社内での自分の評価アップにもなって、自分の生活も豊かになっていくのです。
また、安易に辞められないので覚悟が決まりますし、仕事をうまくやっていくための工夫を考えるようにもなります。仕事人として成長することで、個人の魅力も生まれるようになります。
当社に入社5年目の男性社員がいます。彼は学生結婚し、すぐに子どもも生まれました。まだ22歳の若者で、最初はお金がないから実家に住もうとしていました。「親もそれだと安心するし」という算段でした。
ですが、私はそれを禁止し、ちゃんと二人で生活していくよう伝えました。
なぜなら、そうすることで“最低レベル”を知ることができるからです。最初はお金がなくても仕方がありません。その最底辺からスタートして、二人で協力して、工夫をしながら少しずつ生活レベルを上げていけばいいのです。
逆に、親と同居して最初からそこそこの生活レベルになってしまうと、もしもレベルを落とさざるを得なくなった時に耐えられません。
ゼロからスタートしておくことによって、あとは登るしかなくなりますし、厳しさに耐えられる強さも身につきます。生活レベルが上がった時に自分たちのがんばりを実感できるのです。
今では彼は、若手社員をまとめるリーダーとして成長してくれています。
池田輝男
池田ピアノ運送株式会社代表取締役。1970年、千葉県野田市生まれ。42歳で池田ピアノ運送株式会社の代表取締役に就任。 グループ4社220名のスタッフと12営業所を束ね、ピアノ・大型家電、ピアノ・大型家電・フィットネス器具、OA機器・通信設備機器・音響製品・印刷機器など大型精密機器の全国配送設置工事および大型モニターを使用したオンライン環境提供サービス、企業研修コンサルティングなどを手がけ、書籍「丁寧」なのに仕事が速い人のヒミツも発刊し、増刷決定。「丁寧さと迅速さ」を信条に、同社をピアノ運送業において業界ナンバー1の企業に成長させた。人生のミッションは「日本一、お客さんからありがとうを集めること」
『「丁寧」なのに仕事が速い人のヒミツ』