文 /池田輝男

丁寧な仕事をしていく上では、仕事への使命感が欠かせません。ただしそのためには、社員一人一人の仕事の目的を明確にする必要があります。このコラムでは、「3人の石工」に学ぶ仕事へのマインドの違いのお話から丁寧な仕事についてお伝えをしていきます。

仕事における基本的なマインドを教育する手段として、ぜひ活用してもらいたい逸話に「3人の石工(石切り職人)」があります。ドラッカーの著書『マネジメント』の中で紹介されているもので、「仕事」というものをどのようにとらえるかの指標となるお話です。
 
内容は、次のようなものです。

仕事の意味は意識によって変わる

三人の石切り工の昔話がある。
 
彼らは何をしているのかと聞かれた時、第一の男は「これで暮らしを立てているのさ」と答えた。

第二の男は、槌で打つ手を休めず、「国中でいちばん上手な石切りの仕事をしているのさ」と答えた。
 
第三の男は、その目を輝かせ夢見心地で空を見あげながら「大寺院をつくっているのさ」と答えた。

この逸話は、「仕事」にどのような意味づけをするかを、3人の男の言葉を通して示しています。
 
単に「稼ぐ手段」と考えるか、「専門的なプロフェッショナル業務」と考えるか、「自分の仕事がお客様の未来や人生につながっている」と考えるか。

どのような意識を持ち、意味づけをするかによって、同じ仕事でもまったく違う目的につながるのです。
 
前項(https://serai.jp/business/1043500)で、ピアノを運ぶことはお客様をヘルピングするための手段にすぎない、とお伝えしました。

これをドラッカーの話に当てはめると、第一の男は「ピアノを運んで生計を立てている」、第二の男は「ピアノを傷つけずに運び、綺麗に拭きあげて、完璧な状態で納品している」となります。ですが、じつはピアノを運ぶことはそれだけの仕事ではありません。

仕事に使命感をもつと、達成感が味わえる

ピアノは中級モデルであっても数百万円という値がつくこともある高級商品です。それこそ、自動車を買うのと変わらないくらいの価格がします。ですが、自動車のように毎日通勤に使ったり、出かけたり、荷物を運んだり……という幅広い用途はありません。

あくまでも楽器なので、演奏することに価値がありますし、中には部屋のインテリアにする人もいますが、日常生活になくてはならない“必需品”ではないのです。にもかかわらず、買う人からすると、車と同じくらいとても思い入れのある商品です。

まず、買うハードルが高い。大体はご両親が子どものために買い与えることが多いですが、新品であっても中古であっても、お金を貯め、大きな決断とともに購入します。

次に、子どもが習い事でピアノを演奏したり、家族で一緒に演奏したり……と、そこには家族の団らんや、思い出があります。
 
そして、一度買うとおいそれと買い替えることはしません。つまり、「家にずっとある」ということで、家を彩るインテリアの一つであり、時間とともに思い出が積み重ねられていくものです。

さらに、ピアノの役割はそこで終わりません。

子どもが成長し、結婚をしたりすると、かなりの確率でピアノは最初の家を離れ、子どもの新居に移動になります。私の会社でも、納品と移動の仕事では、後者が圧倒的に多いです。しかも、お客様の多くは結婚した娘さんの新居への移動を希望される方々です。

移動した先では、親になったかつての子どもたちが、今度は自分の子どものためにピアノを与え、一緒に演奏したり、演奏する姿を眺めたりして、新たな思い出と、家族の団らんが同じピアノの上に積み重なっていきます。

ピアノとは、そういう楽器なのです。
 
そう考えると先の石工の第三の男はきっと「自分が運んでいるのは、とある家族の思い出であり、団らんの記憶であり、一族の人生そのものだ」と言うでしょう。

これは仕事に「ミッション性=使命感」を持っている、ということです。

どのような仕事であっても、第三の男のようなミッション性を持っていることで、大きな達成感を得られます。同じ仕事をしていても、第一の男や第二の男とは疲れ方が変わってきます。

なぜなら、シンプルに言ってしまうと第三の男は本当に人の役に立っていることや、社会に貢献していることを知っているからです。このマインドが、お客様へのヘルピングにつながっていきます。

すべての人が「やりたい仕事」に就けるとは限りません。というより、そんな人は少ないと思います。

ですが、私たちは仕事をしなければいけません。

であるならば、情熱を持って仕事をできるようにするためには考え方を変えて、仕事に対する意識そのものを変えていかなければいけません。

何かの意味(成長のチャンス)があったからこそ、その仕事に出会ったのです。まずはそのように考え方を変えることが大切です。

使命感を持って仕事をすることを浸透させることによって、人は丁寧な仕事をしていくようになるのです。


池田輝男
池田ピアノ運送株式会社代表取締役。1970年、千葉県野田市生まれ。42歳で池田ピアノ運送株式会社の代表取締役に就任。 グループ4社220名のスタッフと12営業所を束ね、ピアノ・大型家電、ピアノ・大型家電・フィットネス器具、OA機器・通信設備機器・音響製品・印刷機器など大型精密機器の全国配送設置工事および大型モニターを使用したオンライン環境提供サービス、企業研修コンサルティングなどを手がけ、書籍「丁寧」なのに仕事が速い人のヒミツも発刊し、増刷決定。「丁寧さと迅速さ」を信条に、同社をピアノ運送業において業界ナンバー1の企業に成長させた。人生のミッションは「日本一、お客さんからありがとうを集めること」

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