取材・文/池田充枝
東京・神田に生まれ、挿絵画家として画業をスタートさせた鏑木清方(1878-1972)は、美人画で上村松園(1875-1949)と並び称された日本画家です。
1927(昭和2)年に発表された《築地明石町》は、帝国美術院賞を受賞し、清方を名実ともに日本を代表する画家のひとりに押し上げました。
《築地明石町》制作の3年後、清方は三部作として同じコンセプトで《新富町》《浜町河岸》を描きました。主題となった明石町、新富町、浜町はいずれも清方が慣れ親しんだ町で、その町の情緒を色濃くにじませています。
東京国立近代美術館は、本年6月にこの三部作を収蔵したと発表しました。三部作は1975(昭和50)年以降そろって所在不明となっていたため、とりわけ《築地明石町》は「幻の名作」として再発見が待ち望まれていました。
その《築地明石町》、《新富町》、《浜町河岸》の三部作が44年ぶりに公開されます。(12月15日まで)
本展では、三部作のほかに、重要文化財《三遊亭円朝像》や《明治風俗十二ヶ月》など同館所蔵の清方作品も合わせて展示します。
本展の見どころを、東京国立近代美術館の主任研究員、鶴見香織さんにうかがいました。
「はじめに断っておきますが、この展覧会は小さな展示室でおこなうささやかなお披露目です。いつもはコレクション展の一部として使っている『10室』という日本画の展示室があるのですが、今回はそこが会場となります。
実は、3年後の2022年は清方の没後50年です。その春に東京と京都の国立近代美術館で回顧展を予定していて、三部作も出品します。でも、それまで待てませんよね? 美術ファンの方々にいち早く作品をご覧いただくため、このたびのささやかな展覧会を企画したというわけです。
主役は何といっても三部作です。なかでも、《築地明石町》は自他ともに認める清方の代表作と言われてきました。30年前に朝日新聞社が一般の美術ファンを対象におこなった日本画の人気投票では、さまざまな作品をしのいで、横山大観の《夜桜》(足立美術館蔵)に次ぐ2位を獲得しました。
でも、44年ぶりともなれば、今ではほとんどの人が実際に見るのは初めてでしょう。三部作はみなさんが思うよりもずっと大きく、そして、きものの柄や女性の後れ毛などの繊細さは、みなさんの想像をはるかに上回ります。かくいう私が、まずそこに驚いたのですから。もちろん、清方作品の魅力はそれだけではありませんが、細部を味わうことは作品を直に見る醍醐味のひとつですから、この機会に十分に楽しんでいただけたらと思います。
三部作の脇をかためる作品も豪華です。左隣は重要文化財の《三遊亭円朝像》、右隣は《鰯》ですし、《明治風俗十二ケ月》も一月から十二月まですべて並びます。また、展覧会を知って寄贈を申し出てくださった所蔵家がいて、初公開となる作品1点の特別出品も決まりました。こちらもご期待ください。
中庭のミュージアムショップでは、絵はがきや展覧会に合わせて刊行された『鏑木清方原寸美術館 100%KIYOKATA』(小学館)などの画集も販売されるそうです。ぜひ、会場に足をお運びください」
たおやかでしっとり!!鏑木清方の真骨頂をご堪能ください。
【開催要項】
特集展示 鏑木清方 幻の《築地明石町》特別公開
会期:2019年11月1日(金)~12月15日(日)
会場:東京国立近代美術館 所蔵品ギャラリー第10室
住所:東京都千代田区北の丸公園3-1
電話番号:03・5777・8600(ハローダイヤル)
https://www.momat.go.jp/
開館時間:10時から17時まで、金・土曜日は20時まで(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(ただし11月4日は開館)、11月5日(火)
取材・文/池田充枝