文/中村康宏

ココロとカラダの健康のために! 意識すべき3つの「ホルモン」

現代病と言われるうつ病や生活習慣病。これらの原因になっているのは、残業などの長時間労働に代表される「働き方」であったり、コンビニなど24時間いつでもどこでも食べたいものを買える「環境」であったりします。このような私たちを取り囲む環境があなたの「ホルモン」を阻害しているのをご存知でしたか? 今回は心身の“ストレス緩衝材”となる3つのホルモンに注目し、心も体も健康になるホルモン分泌のコツを解説します。

脳内のストレスにまつわる脳内伝達物質

頭が「ストレス」と感じることで、精神的にはイライラしたり不安になったり、肉体的には交感神経が優位となり高血圧や胃潰瘍になったり。ストレスはココロにもカラダにも影響を与えます。そんなストレスに関わる代表的な脳内伝達物質は4つあります。

●ノルアドレナリン:集中力や緊張感を要する時に役立つ脳内物質です。仕事中や運転中に分泌され、高いパフォーマンスを発揮するために必須の脳内物質になります。しかし、ノルアドレナリンの出過ぎ、出なさすぎはイライラやうつ病、パニック障害の原因にもなります。(*1)

●ドーパミン:やる気や快楽に関わり、行動を起こすことの原動力になる脳内物質です。ドーパミンは「快楽物質」と知られていますが、実際には快楽を得る前に機能し、目的の達成や悪い結果の回避のために「やる気」が出るのです。ドーパミン機能が低下すると食欲低下・意欲低下が起こり、逆に、ドーパミンの過剰な分泌はアルコール依存症や薬物依存症を引き起こします。(*2)

●セロトニン:ノルアドレナリンやドーパミンの過剰な分泌を抑え、心の平穏に寄与します。

●オキシトシン:脳内のストレスサイクルにブレーキを、副腎からのストレスホルモン分泌を低下させます。さらに、セロトニン分泌を増やすことがわかっています。

これらの脳内物質のバランスがココロとカラダの健康に直結するのですが、ストレスを多く抱える現代人は特に上述の「オキシトシン」「セロトニン」と「メラトニン」の分泌を意識する必要があります。そこでこれら3つのホルモンについて詳しく解説します。

オキシトシン

オキシトシンは別名「幸せホルモン」と呼ばれています。乳汁の分泌を促すホルモンでもあり、女性特有のホルモンであると考えられていましたが、実は男性からも分泌されていて、ストレスを和らげる効果があることがわかってきました。(*3)

オキシトシンはどうやって増やす?

人間は群れのメンバー間で洗練されたコミュニケーション手段を発達させ、協力的な行動や群れの統制を図ることで個々の生存確率を高めてきました。現代社会においては集団生活の社会階層によるストレスが生じていますが、一方で、集団生活こそがストレスを緩衝させるオキシトシンを分泌させる要素でもあるのです。人とコミュニケーションをとること、例えば面と向かって話したり、電話で話す機会でも脳内でオキシトシンが分泌され、ストレスが緩和される作用があることが証明されています。(*4)

また、人とスキンシップをするとオキシトシンが分泌されます。現実的にスキンシップは難しくても、握手する、肩たたきなど、職場でもできるスキンシップを考えてみてはいかがでしょうか。

セロトニン

セロトニンは感情をコントロールするのに非常に重要な役割を担います。セロトニンが不足すると、感情がうまくコントロールできず、イライラしたり不安感につながったりします。また、セロトニンは自律神経のバランスをとり、交感神経から副交感神経への切り替えをスムーズに行います。このような働きをするセロトニンの減少は、うつ病や自律神経失調症の原因になります。(*5)

実は、女性ホルモンとセロトニンには深い関係があります。「女心と秋の空(変わりやすい秋の空模様のように、女性の気持ちは移り気だ)」というように、一般的に女性は気分のアップダウンが激しい傾向があります。それは、月経周期によって女性ホルモンが下がる時にセロトニン分泌も低下してしまうからです。ですので、更年期や産後は女性ホルモンの変動幅が大きく、特にうつ病になりやすいのです。

セロトニンはどうやって増やす?

「リズム運動」はセロトニン分泌を促すことが知られています。リズム性の運動とは、例えば、同じ動作をひたすら繰り返すこと、例えばガムをかむことやウオーキング、水泳などのことをさします。イライラした時にガムを噛みながら仕事をすることは感情をコントロールする点で有益と考えられます。
また、「太陽の光を浴びる」または「明るい環境にいる」ことも大切です。これは体内時計の影響というよりは、光を浴びる・浴びないのサイクルが、セロトニン分泌の促進に寄与していると考えられています。(*6)

メラトニン

夜になるとメラトニンが脳内で分泌されますが、この物質は良質の睡眠を導くためには欠かせないものです。メラトニンは、副交感神経の働きを高め、血圧を下げたり深部体温を低下させて眠りにつきやすい状態を作り出します。
睡眠の質が良くなると成長ホルモンが分泌されカラダの修復がすすみ疲労回復や翌日のパフォーマンス向上に直結します。

メラトニンを増やす・効かすためには?

メラトニン分泌の準備は日中から意識すべきです。メラトニンは太陽が沈み暗くなるとセロトニンから作り出されます。そのため、昼間のセロトニン活性がうまく働かないとメラトニンの分泌にも影響がおよび、良質な睡眠が取れなくなるということになってしまいます。オキシトシンとセロトニンを日中にしっかり分泌させ、夜メラトニンを分泌させることで睡眠の質が良くなります。寝る前の半身浴や瞑想など、副交感神経を活性化しメラトニンの効きやすい状態を作ります。また、メラトニン分泌を促すために寝る前の光の暴露には敏感になりましょう。

以上、ココロとカラダを元気にする3つのホルモンについて解説しました。よく寝ることが次の日のパフォーマンスを良くすることは皆さんが経験していることと思いますが、そのための準備は朝起きた時から始まっています。オキシトシン、セロトニン、メラトニンの分泌は相互に影響を与えているので、日常生活において、頻回にコミュニケーションを取る、光を浴びる・浴びない時間帯を作る、リズム運動を意識する、などを心がけてみてはいかがでしょうか? 一連のホルモン分泌を整えると、特別なことをしなくてもココロとカラダのパフォーマンスが向上します。

【参考文献】
1.Acta Psychiatr Scand Suppl 2000; 402: 18-27
2.Pharmacol Biochem Behav 2014; 0: 49–60
3.J Neuroendocrinol 2019; 31: e12700
4.Dev Psycho- boil 2016
5.World Psychiatry 2015; 14: 158–160
6.J Psychiatry Neurosci 2007; 32: 394–9


文/中村康宏
医師。虎の門中村康宏クリニック院長。アメリカ公衆衛生学修士。関西医科大学卒業後、虎の門病院で勤務。予防の必要性を痛感し、アメリカ・ニューヨークへ留学。予防サービスが充実したクリニック等での研修を通して予防医療の最前線を学ぶ。また、米大学院で予防医療の研究に従事。同公衆衛生修士課程修了。帰国後、日本初のアメリカ抗加齢学会施設認定を受けた「虎の門中村康宏クリニック」にて院長。一般内科診療から健康増進・アンチエイジング医療までの幅広い医療を、予防的観点から提供している。

【クリニック情報】
虎の門中村康宏クリニック
ホームページ:http://tnyc.tokyo
住所:東京都港区虎ノ門3-22-14日本FLP虎ノ門ビル12階
Twitterで有益な最新健康情報をお届け:@ToranomonNYC

【お問い合わせ・ご予約】
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