文/柿川鮎子
ペットを飼っているほとんどの人が、動物病院で血液検査を受けたことがあるでしょう。特に犬ではフィラリアの検査のため、毎年実施しているという飼い主さんも多いはずです。とはいえ、なぜ血液検査が必要なのか、いつやるべきなのか、何を調べているのか、すべての質問にきちんと答えられる人は少ないでしょう。何となく獣医さんにすすめられてやっていた血液検査について知ることは、ペットの健康管理に役立ちます。今回はひびき動物病院院長岡田響さんに、ペットの血液検査についてくわしく教えていただきました。
■ペットの血液検査の必要性と目的とは?
「血液検査をすると、その時のその子の体の、目に見えない部分の状態が、数字となって出てくるので、数値を元に正しく評価することができます」と岡田さん。「しゃべることができないペットの状態は、外見からだけではわからないことも多く、本当に具合が悪いのか?とか、どのくらい具合が悪いのか?など判断材料の一つにすることができます。しかし、残念ながら血液検査で全てが分かるわけではないので、他の検査所見と合わせ技で判断が必要となる場合もあります」
ひびき動物病で日常的に行っている血液検査の主な目的は、以下の通りです。
・特定の内臓の状態を調べる(パネル検査)
・(手術時などの)出血を止める力があるのか?(凝固系検査)
・ホルモンの状態を確認する検査(内分泌検査)
・ウイルスなど感染症の検査
・薬の効果判定や副作用チェック
・点滴薬剤の検討
・輸血のための適合判定
・そのほか緊急性の判断材料など
ほかにも目的はありますが、血液を調べるだけで、これだけたくさんの情報が得られるとは。いろいろな検査の中でも活用範囲が広いもののひとつでした。
「血液だけで、けっこういろいろわかります。仕組みを簡単に説明すると、血液は大まかに分けて液体成分(血漿)と血球成分(赤血球、白血球、血小板など)にわけられて、酸素・二酸化炭素、糖や脂肪その他栄養成分を運び、同時に老廃物を運びます。内臓が壊れると、運ぶものが増減したり、老廃物が蓄積してしまいます。血液の中が普通の状態とは変わってしまうのです」
「血液の中がどういう状態かを知ることで、特定の内臓の障害が読み取れます。悪いところがある場合、ある程度の場所の特定や、ダメージ度合いが数字となって表現されてくるのが、血液検査なのです」
■血液検査をやるべき時はいつ?
血液検査が健康状態を把握するのに重要なのは理解できましたが、獣医師に検査をすすめられた時、何となく血液検査を行うのではなく、飼い主として主体性をもって検査にのぞみたいもの。ペットは注射されて痛い思いをするのですから、できれば正しく血液検査を受けたいのが飼い主の願いです。血液検査は誰が、どういった状態の時にやるべきなのかを岡田さんに質問してみました。
「犬の場合、春に毎年やるフィラリア検査『感染症の検査』は全員やるべきです。これは血液中にフィラリアがいないかを調べる検査で、予防薬の安全投与ができるようにするための確認作業をしています。もしも感染しているところに薬が投与されると虫が死んでいく段階で犬の体に危険な反応が出てくるためで、感染していない事実を知るための作業です。『フィラリア予防の前に血液検査をしましょう』というのはこういう理由からなんです」
12月はフィラリア予防の最後の月となるので、そちらも忘れないようにしたいものです。
普段の診療では、病気の検出や検証のためにスクリーニング検査でふるいにかけ、同時に重症度判定をします。すでに入院が必要な段階になっている子の場合は、そのまま同時に輸液剤を選択するのにも血液検査を利用します。また、心臓病や内臓のトラブル、ホルモン異常、てんかんなど慢性疾患で長期間、薬を服用する場合は、継続すべきかどうかを血液検査で調べることもあります。特殊な例で、抗がん剤などの薬を投与する場合は、投与前後に変化がないか、調べるために血液検査を行います。
■病気の症状が出たら検査は必須に
下痢や嘔吐など体の不調が明らかで、病気を絞りこむ診断のために、獣医師が血液検査をすすめる場合もあります。原因がわからないままだと治療を長引かせ、かえってペットの負担になるためです。もちろん、対症治療のみでよくなる場合もあるので、検査を受けるかどうかは状況に応じて判断されます。
病気を疑う時は初期治療の時と、時間を区切って複数回検査することで、体調の確認や原因の特定を進めます。したがって、検査回数が増えるということは、それだけ重症度が高いとか、慢性経過がある、ということにも繋がります。
とはいえ、何回も検査をすすめられると、無駄に高い検査料を請求されるような気もします。岡田さんはそんな時、症状から獣医師がどんな病気を疑っているのか、血液検査でどのような数値がでているのかを、飼い主さん自身もある程度理解しておくことで、血液検査の有効性がアップすると言います。
「無駄な検査かどうか、値段を含め、疑問点は遠慮なく質問して欲しいですね。飼い主さんは検査の必要性がわからないことも多いでしょう。心配ごとでも何でも、お話することで、その話題のなかに診察・診断のヒントがみつかったり、解決することもあります。看護師さんに聞いてもらってもかまいません。大切な家族の命にかかわることですから、分からないままにしないほうがいい結果につながります」と心強いアドバイスをいただきました。
■より良い血液検査にするためのコツ
もう一歩踏み込んで、より効果的な血液検査は無いのでしょうか。岡田さんはフィラリア検査でせっかく血液検査をするのですから、それを健康診断の一部にしてみてはどうかと言います。「私たちは犬のフィラリア検査のときにはスクリーニング検査を同時に飼い主さんに提案しています。せっかく痛いのを我慢して血液を採取したのですから、有効に利用したいのです。いわゆる健康診断ですね。これで病気が見つかることも多いですよ」と岡田さん。
ペットの健康診断に関しては、大まかに分けると、5歳くらいまでは年に一回、7歳以上は年に二回の健康診断が推奨されています。犬の場合はフィラリア検査の時に一緒にできる血液検査に合わせて、尿検査、検便検査をあわせて利用すれば、より詳しく健康状態が把握できます。
動物病院で検査を受けると、数字が書かれた検査表が渡されます。いざという時、この紙に書かれた数字と比較することで、正しい診断が下せる確率は高くなります。これから年末にかけて、動物病院では下痢や嘔吐といった症状を訴えるペットが毎年増えます。その時も、この検査表が威力を発揮するかもしれません。意外と知らなかったペットの血液検査について、検診が必要な時期になっていませんか? 年末年始はお休みになる動物病院も多いようです。ペットの健康で気になる点があれば、ぜひ年内に解決させてしまいましょう!
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取材協力/岡田響さん(ひびき動物病院院長)
神奈川県横浜市磯子区洋光台6丁目2−17 南洋光ビル1F
電話:045-832-0390
http://www.hibiki-ah.com/
文/柿川鮎子
明治大学政経学部卒、新聞社を経てフリー。東京都動物愛護推進委員、東京都動物園ボランティア、愛玩動物飼養管理士1級。著書に『動物病院119番』(文春新書)、『犬の名医さん100人』(小学館ムック)、『極楽お不妊物語』(河出書房新社)ほか。