取材・文/出井邦子 撮影/馬場隆
“ちっちゃな家”で定評のある建築家は、今、16時間断食を実践中。豚カツも登場する朝食が一番のご馳走、活動の源泉だ。
【杉浦伝宗さんの定番・朝めし自慢】
建築家の杉浦伝宗さんは、狭小住宅の魔術師として知られる。敷地10坪前後の家を自ら“ちっちゃな家”と名づけ、この20年間で150件ほど設計してきた。
そんな杉浦さんの自宅は、東京近郊の丘陵地に立つ。昭和54年、26歳で結婚した時に建てた家だ。
「傾斜地を造成せず、それを生かした鉄骨造りのガラス箱のような家です。40年経って樹木が育ち、家も“育って”くれました」
四季折々の自然が楽しめる設計は、“ちっちゃな家”に必ず植える樹木にも通じよう。自然と共生する家が、杉浦さんの真骨頂だ。
昭和27年、愛知県に生まれた。中学生の頃までは、大工さんになって家を建てるのが夢だった。高校に進学して土木に興味を持つが、親の勧めで東京理科大学建築学科に進む。大高( 正
人)建築設計事務所を経て独立。昭和62年には建築家の登竜門といわれる吉岡賞を受賞。以来、“ちっちゃな家”シリーズを始め、主に住宅設計を手掛けてきた。
16時間ダイエット
子供たちは独立し、今は夫婦ふたり暮らし。60歳を過ぎた頃から百合子夫人の提案で“16時間ダイエット”を実践しているという。
これは“16時間断食”ともいわれ、16時間食べない時間を作るというものだ。つまり、1日2食である。
「朝は5時頃に起床。犬との散歩の後、朝食は午前7時頃です。その後、午後3時か4時頃に外で昼食を済ませ、それ以降、翌日の朝食まで固形物は摂りません。昼食までの8時間の間は特別な食事制限はないので、朝食には豚カツや天ぷらなどの揚げ物料理も並びます。いわゆる今までの夕食メニューが、朝食に登場するんです」
16時間ダイエットを始めて、朝食が旨い。ご飯は茶碗に2杯が普通。近在の農家が作る野菜を購入しているので、これらがまた美味。体重は2kgほど落ち、体調はすこぶる良好だ。ただし、夜の会食もあるので、16時間ダイエットにはゆるやかに対応。夜はビールも楽しむし、少しお腹が空いたなと思えば牛乳を飲む。
「体が16時間ダイエットのリズムに慣れているので、早起きになりました。出勤までの間に『
64工房』でひと仕事します」
『64工房』とは、64歳で始めた木工の工房だ。中学生時代の夢をもう一度、自分の手でモノ作りを楽しむための拠点である。
動・植物好き、人間好きが集う『季(とき)の庭』を開園しました
7年前、自宅から400mほどの地に原野を入手した。15mほどの高低差がある傾斜地で、広さは
300坪ほどだ。
「私は休日だけですが、家内は雨の日以外は毎日のように半畳ずつぐらい開墾し、やっと夫婦合作の『季の庭』が生まれました」
その開墾地に、5年ほど前から少しずつ樹木や草花を植えたのが、『季の庭』の始まりだ。それらが育って美しい花をつけ、2年前からオープンガーデンとして一般公開。下方はバラの庭、上方は野草の庭で、その境界をサクラやコナラなどの落葉樹が彩る。『季の庭』の一角には昨年2月、太陽光発電のコミュニティハウスが完成。『64工房』やギャラリー、ペットのトリミングサロンがある。
自宅の庭で兎や鶏を飼っていたこともあるという杉浦さんは今、巣箱はもちろん、庭に動物が来る仕掛けをさまざまに考えている。
「動物好き、植物好き、人間好きが集うオアシスを作りたい」
と杉浦さんがいえば、「アメリカの園芸家、ターシャ・テューダーの庭が目標です」 と妻の百合子さん。日々、進化し続ける『季の庭』に、リタイア後の夢を託す。
取材・文/出井邦子 撮影/馬場隆
※この記事は『サライ』本誌2018年8月号より転載しました。年齢・肩書き等は掲載当時のものです。