菜種油は日本人にとって最も身近な油のひとつです。スーパーの店頭で見かける「キャノーラ油」も菜種油の一種。原料の大部分は輸入に頼っていますが、全国各地で国産も奮闘しており、そうした良質の菜種油はケーキやクッキーなどの洋菓子つくりに用いられることもあります。
先日、青森県の下北半島にある横浜町という町で、素晴らしい菜種油と出会いました。その名を『御なたね油』といいます。
溶剤を一切使わず、「圧搾法」と呼ばれる自然な方法で、種に圧をかけてしぼります。丁寧に作られた黄金色に輝く液体は、菜の花の色を思わせるほど鮮やかです。そのままスプーンですくって口に運んでみると、えぐみをまったく感じない、澄み切った味。パンにつけても美味で、上質なオリーブオイルのような味わいが楽しめます。
生産工程を見学させてもらって驚いたのは、なんと菜種をまったく焙煎せずにしぼっていること。菜種油は原料をあらかじめ加熱することで、より多くの油をしぼることができ、歩留まりがよくなります。しかし、加熱しなければ、生産量は格段に落ちてしまいます。
この『御なたね油』を生産する「NPO法人 菜の花トラストin横浜町」の宮さん夫妻はこう話してくれました。
「よりよい品質の菜種油を作りたいという思いから、非加熱で圧搾しています。これなら、せっかくの菜種の風味が損なわれることはありません」
菜種の原料も、100%地元・横浜町産だそうです。栽培期間中は農薬をいっさい使わず、収穫後はすべて天日干しにするという、じつに手間暇のかかった菜種油の逸品です。
URL:http://www.nanohana-trust.net/
文/大沼聡子