取材・文/藤田麻希
雪化粧した松の木が陽光を浴びて立っています。冬の凛とした空気感が伝わってくる清々しい光景です。江戸時代の絵師・円山応挙が、自らの後援者である三井家のために描いたと考えられている屏風で、応挙の作品のうち唯一、国宝に指定されています。
雪の部分は白い絵の具を塗ったのではなく、紙の地の白色をいかして表し、下方に蒔いた金砂子(金箔を粉状にしたもの)が舞い落ちる粉雪のようにキラキラと輝きます。
この屏風は、所蔵先である東京・日本橋の三井記念美術館で毎年、正月に公開されます。同館で開催中の展覧会《国宝 雪松図と花鳥 美術館でバードウォッチング》(会期~2018年2月4日まで)には、同館が所蔵するもう1点の国宝「志野茶碗 銘卯花墻」も展示され、2点の国宝を同時に観ることができます。
しかし本展がとくにユニークなのは、所蔵品から“鳥”に関する作品を選りすぐって紹介していることです。
実は三井家には、鳥好きの人が多かったようで、新町三井家の三井高遂(たかなる/1896〜1986)は、鶏好きが高じて、東京帝国大学(現東京大学)大学院で鶏を研究し、全日本チャボ保存協会の会長を務めたほど。また、北三井家9代三井高朗(たかあき/1837~94))は、京都の博覧会に多くの飼鳥を出品しました。
こうした好みを反映してか、三井記念美術館の所蔵品には、鳥を描いたり、象ったりした作品がかなりの数あるのです。
同館学芸部長の清水実さんに展覧会の見どころを伺いました。
「三井記念美術館では、円山応挙の国宝《雪松図屏風》の新春公開が恒例となりつつありますが、今回の展示はそれにあわせて花鳥、なかでも鳥にかかわる館蔵品を展示しています。
そのなかで特筆すべきは、渡辺始興筆《鳥類真写図巻》です。17mを超える長大な写生図巻で、63種の鳥が様々な姿で写実的に描かれています。写生の祖といわれる応挙がこの図巻を写しており、日本の写生図を考える上で貴重な作品として知られていますが、今回は全図を一挙に展示しています。
この展覧会では、三井家が“鳥好み”であったことも紹介していますが、《鳥類真写図巻》が当館に伝わるのも、三井家の“鳥好み”ゆえのことでしょう」
「鳥類真写図巻」は、俊敏に動く鳥を、側面、背面、腹部など、さまざまな角度から克明に捉えたもので、図鑑のような雰囲気さえ漂います。筆者の渡辺始興の並々ならぬ描写力と、観察眼に圧倒されること請け合いです。じっくり時間をかけてご覧いただきたい展覧会です。
【国宝 雪松図と花鳥 -美術館でバードウォッチング-】
■会期/2017年12月9日(土)~2018年2月4日(日)
※会期中、下記の作品は展示替えをいたします。
重要文化財 日月松鶴図屏風 2017年12月9日~12月27日展示
国宝 雪松図屏風 円山応挙筆 2018年1月4日~2月4日展示
■会場:三井記念美術館
■住所:東京都中央区日本橋室町2-1-1 三井本館7F
■電話番号/03-5777-8600(ハローダイヤル)
■料金/一般1,000(800)円、大学・高校生500(400)円、中学生以下無料
■開館時間/10~17時(入館は閉館30分前まで)
■休館日/月曜日(ただし、12月25日、1月8日、1月29日は開館)
※年末年始(12月28日~1月3日)、1月9日、1月28日は休館
取材・文/藤田麻希
美術ライター。明治学院大学大学院芸術学専攻修了。『美術手帖』
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