取材・文/池田充枝
明治から昭和にかけて活躍した、京都の日本画家・木島櫻谷(このしま・おうこく 1877-1938)をご存じでしょうか。徹底した写生を基礎に、卓越した技術と独自の感性により創出された数々の動物画で、高く評価されている画家です。
確実で精緻にとらえられた動物たちの表情は、一方で情趣にあふれ、どこかもの言いたげです。それは時代を超えて人を惹きつける普遍性をもっています。
そんな近代京都画壇の雄・木島櫻谷の生誕140年を記念した展覧会『生誕140年記念特別展 木島櫻谷 近代動物画の冒険』が、京都の泉屋博古館で開かれています(~12月3日まで)
そもそも櫻谷の再評価のきっかけとなったのが、2013年に同じく泉屋博古館で開催された回顧展でした。その平明で清澄な画風に大きな反響が寄せられ、知られざる作品が続々と見い出されて再評価の機運が高まっていきました。
本展は、再評価の機運が高まる櫻谷が描いた“動物”に着目し、その代表作はもちろん、未公開の作品を一堂に集め、多彩な表現とその変遷を辿ります。併せて櫻谷文庫に遺された多くの資料調査から、制作風景や画材などを紹介。櫻谷の歩んだ道程を通して京都の近代日本画の諸相も明らかにします。
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本展の見どころを、泉屋博古館の学芸課、実方葉子さんにうかがいました。
「今回は初公開の作品が目白押しです。4年前の回顧展をきっかけにその所在の情報が新たに寄せられました。
中でも《猛鷲図》は、京都の老舗染織会社が明治36年に制作した染織壁掛(天鵞絨友禅)の原画という点でも大変貴重です。風に向い翼を羽ばたく大鷲の様子を水墨と淡彩で力強く表現、そして光を感じさせる陰影表現には西洋画の影響も感じられます。
このほかのいくつかの初公開品の共通するのは、長らく京都内外の個人宅で大切に伝えられてきたこと、櫻谷20歳代の作であること、そして動物を描くことです。若き櫻谷がいかに地元京都の目の肥えた旦那衆に支持されていたかがしのばれます。
その代表例が《熊鷹図屏風》で、巧みな水墨技法に西洋画の写実表現が融合しています。えもいわれぬ熊の表情や余韻ある空間の広がりがなんとも胸を打ちます。櫻谷20歳代のひとつの到達点ともいえます。
晩年の作《獅子図》は、地面に臥したライオンを精緻にとらえています。その表情は内省的で思索するかのようです。そこには獣の野性は感じられず、人間じみた趣があります。
櫻谷は生涯写生を重視しましたが、それをそのまま作品にすることはなく、自身の中で熟成させた新たなイメージを絵画に表現したといいます。この《獅子図》はそのなかでも櫻谷自身とも重なり合うような深い表情が印象的です。
青年期から晩年にいたる櫻谷のさまざまな動物表現をぜひ見比べてみてください」
今にも動き出しそうなイキイキとしたリアルな動物たちの姿を、ぜひ会場でご覧ください。
【展覧会概要】
『生誕140年記念特別展 木島櫻谷 近代動物画の冒険』
■会期:2017年10月28日(土)~12月3日(日)
■会場:泉屋博古館
■住所:京都市左京区鹿ヶ谷宮ノ前町24
■電話番号:075・771・6411
■開館時間:10時から17時まで(入館は16時30分まで)
■休館日:月曜(祝日の場合は開館し翌日休館)
http://www.sen-oku.or.jp
取材・文/池田充枝