選評/林田直樹(音楽ジャーナリスト)
世界の楽壇の風雲児、1962年エストニア生まれのパーヴォ・ヤルヴィが、2015年秋からNHK交響楽団の首席指揮
者に就任したことは、日本のオーケストラ界にとって大きな事件であった。
以来パーヴォがN響との共演で最も力を入れている作曲家がリヒャルト・シュトラウスであり、『ツァラトゥストラはかく語りき&メタモルフォーゼン』はそのレコーディング第3弾にあたる。パーヴォの大胆さと集中力、N響の重厚な響きが見事に一致し、稀に見る美しいシュトラウスの演奏が堪能できる。
ドイツ・ロマン派の終着点に位置するこの大作曲家は、複雑精緻な管弦楽の扱いが特徴的だが、パーヴォとN響の演奏は、卓越した技術によってそれを再現しているのみならず、熱い真情がこもっているところがいい。
映画『2001年宇宙の旅』で知られる「ツァラトゥストラ」での上質な輝きもさることながら、ベートーヴェンの英雄交響曲の葬送行進曲を主題とした「メタモルフォーゼン」の濡れたように艶でやかな弦の響きは鬼気迫るものさえ感じさせる。(※試聴はこちらから)
【今日の一枚】
『R.シュトラウス:ツァラトゥストラはかく語りき&メタモルフォーゼン』
パーヴォ・ヤルヴィ指揮 NHK交響楽団
2016年録音
発売/ソニークラシカル
http://www.sonymusicshop.jp
商品番号/SICC-10219
販売価格/3000円
写真・文/林田直樹
音楽ジャーナリスト。1963年生まれ。慶應義塾大学卒業後、音楽之友社を経て独立。著書に『クラシック新定番100人100曲』他がある。『サライ』本誌ではCDレビュー欄「今月の3枚」の選盤および執筆を担当。インターネットラジオ曲「OTTAVA」(http://ottava.jp/)では音楽番組「OTTAVA Salone」のパーソナリティを務め、世界の最新の音楽情報から、歴史的な音源の紹介まで、クラシック音楽の奥深さを伝えている(毎週金18:00~22:00放送)
※この記事は『サライ』本誌2017年11月号のCDレビュー欄「今月の3枚」からの転載です。