取材・文/関屋淳子
オーストリアの首都・ウィーンは芸術の都、音楽の都と称されます。サライ世代には人気の旅行先ですが、まだまだ知られていない素晴らしい食文化があります。
そこで3回にわたって、ウィーン商工会議所により「ウィーンプロダクツ」の称号を与えられた企業が、歴史や伝統製法を守りながら築いてきた、ウィーンならではの食の世界をご紹介します。
今回は、ウィーンのお酒事情です。古都ウィーン周辺に、ワイン、スパークリングワイン、ビール、そしてシードルといった、伝統的なお酒の作り手たちを訪ねました。
■1:ワイン天国ウィーンの実力派白ワイン
ウィーンは、中心部から路面電車やバスで20分ほど行くと広大なブドウ畑が広がるという、大都市とは思えない環境にあり、周辺には現在約190のワイナリーが点在しています。
ウィーンワインのなかでも、白ワインは“ゲミシュター・サッツ”という独特の製法で造られています。これはひとつの畑に異なる品種のブドウを植え、それらをすべて混ぜて醸すという製法です。(ウィーンのワインについては、「独自の製法で醸す極上の自然派ワインを求めて」の記事もご参照ください)
今回ご紹介するワイナリーは、ウィーン北部シュタマースドルフにある『ヴィーニンガー(Wieninger)』です。ヌスベルクという、ウィーン市内が一望できる標高250mほどの小高い丘に、美しいブドウ畑が広がっています。
ここはハイキングスポットとして人気があり、ハイカーたちがワインと軽い軽食を楽しむことができるようになっています。
ヌスベルクはワインブドウ栽培には最良の土地とされ、ヴィーニンガーがこの場所を確保した1999年には、ここでリースリングとグリューナー・ヴェルトリーナーの単一畑をつくり、ゲミシュター・サッツとは一線を画したワイン造りを行なうつもりだったそうです。
しかし土地の一角にゲミシュター・サッツ用の9種類のブドウが育つ古い畑があり、試しに醸造してみたところ、その美味しさに衝撃を受け、以来ゲミシュター・サッツの品質向上に尽力。ウィーン伝統の製法を見直し、今ではゲミシュター・サッツの帝王とも呼ばれています。
近年は有機農法の一種「ビオディナミ農法」も取り入れ、オーストリアが誇る名ワイナリーのひとつとなっています。
ここの白ワインは、基本は爽やかな辛口で、すっきりとした柑橘系の香りのもの、深みがある味わいのものなどがあります。あまり癖がないので、和食にぴったり合いそうな味わいです。
自家製ワインとハムやソーセージなどを楽しめるのが「ホイリゲ」。ワイナリーに併設する居酒屋で、ウィーン子にとって憩いの場となっています。
■2:華やかですっきり、ウィーンのスパークリングワイン
『シュルンベルガー(Schlumberger)』は、1842年創業のオーストリア最古のスパークリングワインメーカー。フランスで伝統的なシャンパーニュの製法を学び、ウィーンでその味わいを深めています。
ブドウ品種はピノブランやシャルドネのほかに、オーストリアらしくグリューナー・ヴェルトリーナーなども用いて、華やかな味わいにすっきりとした飲み心地。いかにもウィーンのスパークリングワインという感じです。
ブドウはすべて手摘みで行い、450軒のブドウ農家と契約。瓶内二次発酵(5か月~36か月)によりゆっくりと醸造されます。
市内にある店のセラーは300年前の地下ワインセラーで、迷路のように2.5km延びています。年間気温は自然の状態で13~15度に保たれています。
ウィーンから50㎞ほどのところにある醸造場から運ばれたボトルはここで6人の職人の手でルミアージュされます。ルミアージュとは瓶を回転させて瓶口に澱を集める作業のこと。今ではコンピューター制御の機械で行うところが多いのですが、ここではなんと手作業で一本一本を反時計回りに1/8回転させます。
的確にすばやく回転させる技は、カメラのシャッターが追いつきません!
セラー見学と試飲がセットのガイドツアーがあり、併設のショップではお買い物も。スモールボトルやスパークリングワイン入りのチョコレートなど求めやすいものが多く、ショップのドアにも描かれている愛らしい妖精が乙女心をくすぐります。
■3:ウィーンのビールは喉越しがいいドイツスタイル
ウィーンはワインだけではなくビールも人気で、バーやクラブではビール片手に語り合う若者がとても多いのです。1837年創業のビール会社『オッタークリンガー(Ottakringer)』は市内に醸造所を構える伝統あるメーカーで、年間55万hl、約15種類のビールを醸造しています。
麦を乾燥させるために使用していた1907年建造の趣ある塔が印象的です。
最新の設備とともに、地下セラーにはかつて使われていた樫の木の樽もあり、これらを巡るガイドツアーがあり、最後はお楽しみの試飲です。
オーストリア産の小麦と地下120mから湧くウィーンの井戸水で仕込むビールは、喉越しがいいドイツスタイル。ピルスナーやへレスなど、日本人になじみのある味わいです。100年前のレシピを再現したビールもあり、ビールの旨さを再認識しました。ウィーンではビールのレモネード割り・ラドラーも人気で、オッタークリンガーでも製造。
ラドラーとは自転車乗りの意味で、サイクリングを楽しむ人々が喉の渇きを癒すために飲んでいたとか。ウィーン子のアルコール好きを表わす飲み物ですね。
■4:昼飲みに最適なリンゴのシードル
オーストリアのシュタイヤマルク州は国内きってのリンゴの産地。そのリンゴを使ったシードルを製造するのが『ゴルドケールヒェンサイダー(Goldkehlchen Cider)』です。
シードルはリンゴを発酵させて造るスパークリングワインのこと。アルコール分は4.5%、爽やかで軽い飲み心地で、昼飲みにベストです。
すべて手摘みしたリンゴを用いて、1本のボトルにリンゴ3~4個が使われているとのこと。砂糖や香料などは一切加えずリンゴ本来の甘さと酸味が味わえます。
リンゴ100%以外に、リンゴと洋ナシ、リンゴとアメリカンチェリー、リンゴとカシスといったシードルもあります。市内のスーパーでも入手可能。コマドリが描かれたラベルが目印です。
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3回にわたり、オーストリアが誇る食文化と「ウィーンプロダクツ」の数々をご紹介してきました。
スイーツやジャム、お酒など、今回は食に特化したご紹介でしたが、ほかにも伝統と技が光る“ほんもの”がたくさんあります。廃止されていた日本からウィーンへの直行便が、2018年5月に復活するという嬉しいニュースも飛びこんできました。
ぜひ、ウィーンに足を運び、その伝統と文化の奥行きを、ご自身の眼と舌で確かめてみてください!
取材協力/
ウィーン商工会議所
http://www.wienproducts.at/?lang=ja
オーストリア大使館商務部
http://www.advantageaustria.org/jp/
◎取材・文/関屋淳子
桜と酒をこよなく愛する虎党。著書に『和歌・歌枕で巡る日本の景勝地』(ピエ・ブックス)、『ニッポンの産業遺産』(エイ出版)ほか。旅情報発信サイト「旅恋どっとこむ」(http://www.tabikoi.com)代表。